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2019年09月12日

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~劇団速度『Nothing to be done.』~

※掲載の文章は、第10回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際の講評を採録・再構成したものです。

市原:
最初に幕が上がった時の画が良いと思いました。始まってからは、踊りかなと思ったんですが、言葉が出てきてからは演劇についての演劇なのだと見ることができました。「ここ見て」というシーンも面白かったし、対話、質問のところの台詞もやりすぎなくてちょうど良い量だったと私は思います。それが手がかりになって見やすくなり、整理される感覚がありました。出演者の方も自分の仕事をあしっかりされている感じがして好感度の高い作品で、面白かったです。

我妻:
最初にパッと見たときの装置の感じやセンスが、すごく高いと感じました。進行する内にあまり具体的なストーリーがないものですから、これはかなり問題意識が高い作品なんだろうという風に思って見ました。でもその問題意識の「問題」ってなんだろうというのは全然わからずに終わってしまって、私がちょっとバカだからかなとか思いながら控え室に帰って、審査員の先生方が語るのを聞いて、なるほどそういう見方をすれば、こういう切り口で見ることができるんだなと思いました。そういう意味で、私にとっては、最初の引っ掛かりを掴み損ねてしまったので、「そこに問題意識があるんだろうなあ」で終わってしまった感がありました。

乗越:
非常に身体性の強い作品で、演劇のコンクールにこういう作品が登場するのはとても嬉しく思いました。世界的にも、国際演劇フェスと言われているものでも大体2~3割はダンス的なものが入ってきますし、基本的にはもう、パフォーミングアーツとしてダンスと演劇を分ける必要もなくなってきていますから。ただチラシを見ると彼らのコメントとして「ダンスのことを考える作品を作っていきたい」と書いてあったのに、当日のパンフではなぜか削除されており残念でしたが、ぜひダンスのことを考え続けていただきたい。
二人とも身体性が強く、コンタクト・インプロビゼーションと言われるダンスの方法で、絶えず相手の体に触れて、相手の体の動きを読み取りながら自分も動きを作っていく。あるいは「全力で向こうに行こうとする相手を全力で止める、そのやりとりがダンスになる」というような手法をかなり強い形でやっており、それを演劇作品として提示するのはいいですね。しかし、あの長さが必要だったのかというのがちょっと疑問ではあります。
映像のようにフォーカスができない舞台上において、「ここ見て」と観客の視線を誘導して、集めた場所にもうひとりが絡んでいってコミュニケーションが始まる、というところは、非常によかったと思います。
ただ冒頭、木が立っていてその延長線上に花が置いてあり、「これ絶対倒れるよな」と思っていたらやっぱり倒れた、という展開はあまりにも「そのまんま」なので、そこは裏切って欲しかった。

杉山:
劇場に入って、ちょっと笑いました。柱の立ち方がめちゃくちゃ面白かった。安藤忠雄とコラボレーションしているような。本当に、ここの壁の歪みはすごく邪魔で、それをすごく意識されていて袖幕もまっすぐ垂らせないんですよ。だからどこのカンパニーもそうだったんですが、暗転で最初に幕が閉じるんですが、明かりが漏れちゃっていた。でもそれをわざと使っているとか、柱の倒し方もおもしろかった。上手側に傾いている物を下手側に倒すのってすごい難しいんです。それをわざと引っ張って、グンと余力を使ってから倒した。そういうところもすごくおもしろかった。まさに僕はコンタクト・ゴンゾ(※)とか地点(※)のスポーツ演劇をすごく思いました。身体ということから、どうそれを演劇と絡めていくか。二人の体が、地上に落ちないようにずっと頑張っていくということと柱が落ちないという重力に逆らっているという感覚とかもすごくおもしろくずっと見ていられるんですけど、台詞の方で、もうちょっとコンタクトがあっていいんじゃないかな。体のコンタクトのような、台詞自体がメルトダウンしていくとっていうんですかね、意味を剥ぎ取られていく。そういう感覚が体の方にはあったんです。あと衣裳が、もうちょっと考えてもいいかなと。時間が経つ、あるいは変化していく。あれだけの汗かいて、腹が真っ赤になるのがすごい素敵なんですよね。そういうことが、衣裳でも起こるとおもしろい。衣裳の色が変わっていくとか破けていくとかでもいいんですけど、そうすると、時間が経っていく。あれだけの時間が必要だったかというのが見えて来ると思えました。好感の持てる作品で、僕は好きです。

※コンタクト・ゴンゾ:2006年にダンサーの垣尾優と塚原悠也により結成され、複数人のメンバーからなるアーティストユニット。http://contactgonzo.blogspot.com/
※地点:三浦基氏が率いて京都で活動する劇団。http://chiten.org/about

加藤:
まず舞台上をパッと見た時にものすごく余計なものがないというか、必要なものだけが置かれているという整った美しさみたいなのを先ずイメージしました。舞台装置の柱と、同じ角度になろうと俳優さんが反っている姿というのがすごいおもしろかったです。「この人たちはすごい体が利く人たちなんだな」というのがその瞬間から分かって、もちろん上演中の体の動きみたいなものもすごく魅了的でしたし、ずっと見てられるなと思いました。ただ、台詞が出た時の体の状態と台詞の必要性みたいなものが、もうちょっと見えると良かったかなと思っています。いろんな職能を持った方がいらっしゃる団体なんですよね。コレクティブな作り方というのはどんどん増えていて、演劇とかダンスとか美術とかいろんなもののジャンルだったりボーダーみたいなものをどんどん飛び越えながら作品を作り続けて欲しいなと思いました。

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徳永:
私は大好きでした、この作品。みなさん身体のことを仰っているんですけど私は演劇の歴史についての物語だと解釈しました。奥に座っている人が、飾ってあるお花を正座して観ていましたど、あれが旧来の演劇の見方、演劇と観客の関係だったのが、正面側の人がゼスチャーで「ここ見て」と観客の視線を誘導したのが現代の演劇の起こり。観客はそれを無視してるんですが、ずっと「ここ見て」「ここ見て」と訴え続けている。この人は演劇そのものを表していて、あっち(舞台後方で正座をしている)の人は観客そのもの。「ここ見て」「ここ見て」と演劇が言うのですが、演劇の動きはちっとも定まらず、演劇自身も困ってしまうんです。「ここ見て」と言いながら「ここ」を特定できないから、でも歴史ってそういうものだからしょうがなくて、ずっと苦労して、「ここ見て」「ここ見て」と言っていると、観客が、ようやくちょっと気付いて接近をする。最初視線も全然交わらないでようやく肉体のコンタクトがはじまるんだけれども、組んずほぐれつ、ぶつかる。でも目は合わないし、彼らは決して手を触れ合わないようにして、体をぶつけあう。ぶつかりあう途中で人という形になったりして、「ああ、支えあってるんだな」と思いました。最終的にふたりのポーズがピタリと重なって、ようやくそこまで関係が進んだと思ったら、歴史はリセットされるので、観客は最初の位置に戻り、また演劇は「ここ見て」とやりだすんだけど、その頃は演劇はクタクタ。息が上がりながら「ここ見て」と言っていると、既にもうコンタクトはしているので、観客は、俊敏に反応して、目をちゃんと合わせるようにして近づいてくる。そうすると今度は演劇が観客に合わせようとはしない。というのは、舞台に刺激され、頭の中で動いていたストーリーですが、それをふたりの体だけでやりきったこと、その物語が緊張感のあるパフォーマンスになっていてすごくおもしろかったです。

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~劇団速度『Nothing to be done.』~



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