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2019年09月12日

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~公社流体力学『美少女がやってくるぞ、ふるえて眠れ』~

※掲載の文章は、第10回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際の講評を採録・再構成したものです。

乗越:
作品中に本人が言っていましたが、こういう作品がファイナリストに残るのが、せんがわ劇場演劇コンクールの素晴らしいところだなと自画自賛しております。本当に、こういう幅の広さが演劇の未来のために必要だろうと思います。
上演中は一瞬「あれ、いま言いよどんだか?」と思わせたかと思うと絶妙にリカバリーしていったり。名優の安定した演技とはまた違う、ギリギリの魅力をギリギリのままに歩いていくのを見守る観客側の緊張感が、たまらなく魅力的でした。かと思うと最後まで息切れもしないし発語は聞き取りやすく、何気なく話していたように見えた伏線が鮮やかに最後で回収されたり、かなりの手練れなのではと思わせる。応募のビデオではもっと(言葉は悪いが)モッサリしたおっさんのイメージで、美少女役も本人がやるのかよ! と怖いもの見たさもありました。しかし実際に見ると意外に爽やかで美少女を演じても違和感を感じさせない。それは演技力ということでしょう。
他の作品も見たいものの、あまりにも劇作と演出と本人のキャラクターが渾然一体となった作品なので、これからどう進化していくのか未知数っぷりがハンパないですね。勝手な不安要素ですが、期待したいところでもあります。とても楽しかったです。

杉山:
もう爆弾でしたね、爆弾。先ほども言った箱庭演劇祭など、今の演劇業界は本当に閉塞的だと思った時に、その尺度で測れないものが来ちゃったなと思いました。「これ漫才?落語?なにこれ?」と最初思っていましたが、すごい演劇的なんですよ。もしかしてシェイクスピアを生で見ていたらこういう感じだったんじゃないのと思うぐらい、劇がはじまっているのに、劇じゃない。今、客席の状況に戻っちゃったりとか、シェイクスピアってそういうこと平気でやっていたんですよね。ハムレットでも一番最初「WHO ARE YOU?(フーアーユー)」という台詞ではじまる。「お前誰だよ、誰だよ」と言われちゃうわけですよ観客が、そういう感じを受けて、「え、なに?いまはじまってんのに僕が作ってきた話のことをしてるんだ」みたいなことって、すごい戦略的に練っていて、これが演劇。「令和世代の演劇」って僕は名付けました。新しいぞと、思いましたね。空間の使い方もすごいおもしろいんです。なにもないんですよ。キューブもなければ照明の変化もない。彼がちょっといる場所で、家はこれぐらい、廊下がこれくらいで、今本当に壁に彼の手が当たっている。「しゅうこ(役名)」はここからのぞいて来たんだな、とか、大宮の駅前の様子であるとか、本当に位置どり、微妙な位置どりなんです。で、これは漫才では起こらない。漫才とか落語ではこれをもっと省略化する。だから明らかにこれは演劇だなと思ったんです。そういうところも非常にエクセレントで、本当におもしろかったです。あと他者がいるという感じもよかったです。私小説的な話なんですけど、ものすごい他者の目線があって、他者の目線で書いてる。でさらに、(これもシェイクスピアっぽいんですけど)ちょっと哲学的なんですよね。「宇宙の力を愛が超える」という。シェイクスピアさらにはギリシャ悲劇まで遡れるような。だから「なんだこいつ」って思いました。これヘタウマなくせに、ものすごい。もしかしたら文学少年なのか、とすごく感じましたし、LGBT的なこともすごく考えているようで、レズのカップルだったりとか、それに対して美少女という定義も、これはたぶん徳永さんが仰られて本当にその通りだなと思ったんですけど、すごくおもしろいフレームを作られているなと思いました。今、本当に閉塞している演劇界にこういう爆弾が必要で、こういうことで演劇がまたどんどんどんどん変わっていければいいんだなという風に思います。

加藤:
もうとにかくエネルギーというか、圧をずっと感じ続けました。シームレスにはじまっているんですけれども、ちゃんとメタ構造になっていて、中でもちゃんといろんな話が展開していくし、遡って伏線も回収される。たったひとりしかいないんだけれども、ものすごくたくさんの作業をひとりでこの場で家内制手工業じゃないですけど、どんどん生産して、それをこうどんどん浴びせられてるエネルギーをすごく感じました。なんとかして、作中のそばかすいっぱいのツリ目の「しゅうこちゃん」を想像しようと思うんですけど、とにかくあなたの姿しか見えなくて、なんなんだろうと思いました。すごい不思議な経験だなと思いました。この先ご自身が例えば俳優として、他の作品に出演したり、なにか新しい作品を書いてみる可能性をすごく感じましたし、色んな場所で活躍する姿というのを見てみたいなと思いました。

市原:
まず台本読んで、「どんな人が書いてるんだろう」「どういう影響を受けてこういうものができるんだろう」と興味深く、パフォーマンスを見て、もう読んだ時よりも何倍もおもしろかったです。自作自演の方と言いますか、自分が書いた台本に出る方っていると思うんですけど、やはり自作自演ではない俳優さんとは存在感が違いますよね。そういう方ってやはりイメージの膨大さが他の俳優とは全然違うんだろうなと思います。自分が俳優でこの作品を演じろと言われたら敵わないというか。それを俳優として評価していいのか分からないんですけど、素晴らしいパフォーマンスだなと思いました。お客さんとのコミュニケーションの取り方とかも狙っているのか狙っていないのか分からないんですけど、おもしろかったです。

我妻:
最初に予選で映像を拝見した時は、あまり印象が良くなかったです。本当に自分でボソボソ言っているような。「俺の美少女に対してみんな、なにも言ってくれるなよ」みたいな排他的な人なんだろうな、と思ったんです。そういう排他的な人が来てもおもしろいかもな、と思って、予選は選びました。ちょっとそういう意味ではいじわるな面もありました。こういう人がこういう劇場でやったらどうなるんだろうという興味があって。それで今日、私たちが入ってくる時、客席前で接客をなさっていて、「お客様に対して案内ができるんだ」「ちゃんとしたとこあるんだ」「社会性あるんだ」と思ったんです。「お楽しみに」とアナウンスして緞帳幕の裏に下がって、幕が開いたらそのまま同じ格好で立っていたので、その朴訥さ、飾り気のなさがすごく強みになっている作品だったと思います。特に舞台装置もなく照明の変化もなく、飾りまくっているわけでもなく、かっこつけてるわけでもなく、その人そのものがいるということしかない状態で、その人そのものの強さが一番出た作品であったのではないか。それが私は自分がやっている踊りと似ているなと感じるところがありました。台詞の喋り方が上手だとか、テクニックが上手だとか、振付が上手だとか、足がこんだけ上がるとか、そういうところは本当に意味がなくて、その人はどういう魅力があるんだろうという人の魅力によってお客様を「うわぁ、おもしろい」と惹きつけられる。そういうところを感じました。舞台中、自分のことを語る時の観客との駆け引きが上手で、爆笑を引き起こしていました。私は笑いませんでしたけど、理由は本当にうまいなと驚きながら見ていたからです。そこが非常に魅力的な方だなと思いました。そういう意味では、語っているところが個人的な美少女像だけれども、テーマが普遍的に開けている部分もあって、見ている間共感するところが多い分、言葉の裏や意味など何も難しく考える隙きがなくて「ホッ」としました。これが難しい問題だったらどうしようかと思いました。見終わった後に、「あぁよかった」みたいな気持ちになれたのが、非常におもしろかったです。

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徳永:
みなさんが仰ったように、観ているこっちを心配させるような半拍遅れの台詞術で、それが逆に、観客が周知して耳を澄ますという状況をつくりました。しかも、必要な情報はちゃんと伝わっているという。話が進むにつれ、計算は見えないし、不器用に見えてるけれども、冷静でしたたかな表現者ではないかと感じました。どこまで素朴と思っていいのだろうかと笑いながらちょっと怖くなるくらいでした。
美少女にこだわって美少女にまつわる作品を作り続けていると、応募用紙にも書いてありましたし、この作品もとにかく「美少女」「美少女」なんですけれども、美少女の定義が、世間で流通しているような、若くて可愛いということじゃないと。そこがいいんですよね。恋をして走り出したその瞬間が美少女なのである、という定義が、フェミニズムからの反発をかわすんです。さらに美少女同士が愛し合っていて、LGBTへの理解もある。さらに、太田さんが演じた人物は、彼女たちの幸せを願って、被らなくてもいいような不幸を被って孤軍奮闘する。決して劣情を抱いたおじさんのフェティシズムの話ではないというところが、話が見えてくるっていう全体の構成に、最後はすっかり引き込まれましたし、本当に感心しました。お疲れ様でした。

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~公社流体力学『美少女がやってくるぞ、ふるえて眠れ』~



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