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2019年09月12日

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~イチニノ『なかなおり/やりなおし』~

※掲載の文章は、第10回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際の講評を採録・再構成したものです。

加藤:
パンフレットに、「魅力のない町茨城から来ました」という風にコメントがあったんですけど、みなさんが作っている作品には、自分たちが住んでいる町や場所への深い愛情というのを感じました。ただ場所への愛情が深いからこそ、作っているみなさんが共通認識として持っている「町」と言った時にパッと浮かぶ風景が、仙川に暮らす人々であったり、われわれ東京や他の地域で暮らす人間には、なかなか共通のイメージをしづらい瞬間があったのが、もったいなかったかなと思いました。もう少し「コンパクトシティ」とはどういうものなのか?であったり、具体的な場所のイメージを共有する時間があったらいいのになと感じました。絵筆が大きな筆に変身して空を飛ぶというシーンがすごい素敵だなと思いました。

市原:
ほとんど同感なんですけど「コンパクトシティ」というものが舞台を見ただけでは理解できず、抽象的で素敵なシーンが多いんですが、そのシーンの配分が多すぎて、もうちょっと具体的な部分を知りたい、と舞台を見た後にすごく感じました。

我妻:
私も田舎の出身なので、人口の流出であったりとかは、実家に帰った時、自分もそういう気持ちになるなと重ねながら見ました。シンプルな舞台ですけれども、みなさんが演技の中で丁寧に行なう仕草や会話のテンポによって景色が広がる瞬間が多くて、自分もそこの中にいて、その住民になって同じ問題を抱えているような錯覚に陥って楽しかったです。

乗越:
みなさん仰っているようにこの作品のもうひとつの主役は「都市」ということだと思うんですが、その描きこみがちょっと足らないと思います。現代の地方都市には「駅前に葬儀場が多い」など、ぐっとくる描写はいくつかあったのですが、肝心な「コンパクトシティ」が描く100年後というのが、「人も飛んでいる」「車も飛んでいる」とか、割と大昔のスタンダードなSFの未来都市像でしかなく、魅力的に思えない。もっと独自のアイデアに満ちたリアリティのある未来都市像だったら、その計画からはじかれてしまったお母さんの無念さにもっと感情が動くのだろうと思いました。
あと、お母さんの不在を空席で表現し、そこにいろんな人が座ってお母さん役を演じる演出は、なるほどとは思いますが、その効果や必要性については疑問が残りました。ただお父さん役の人が、お母さんの格好するのは味わい深かったですけれども。

杉山:
また名付けました勝手に「新社会派演劇」と。「社会とどうやって演劇とかが関わっていくのか」ということは今、ひとつのテーマだと思います。古い時代の演劇がどんどん消えていって、そこで取り上げていた社会的な大きな問題にも関心が薄くなって、テーマが個人的で閉塞的なものになっている。でも、地方が抱えている問題や、少子高齢化、親と子の関係、そうした大きなテーマを真摯に扱おうとしているというところに僕は惹かれて、もっともっとこういう作品を、地道に太く作っていってもらいたいなと思いました。
みなさんが言われている通り、描き方がゆるいかなというのがありますが、テーマは面白いんです。「コンパクトシティ」とか「100年後」とか。
100年後の人たちに「100年前のあいつらが町をダメにした」とは言われたくないよね。浮世絵とかに描かれているように、現在から100年前の人たちはすごい良いものを作っていたのに、うまく引き継いで残せなかったじゃないか、と。そういう意味で「100年後」ということが、僕はもっと日本のいろんな地域で問われていくんじゃないかと思います。だから、テーマはすごく面白い。
演出の方法もさまざまなやり方を使っていて、手数知ってるな、という感じがしました。モノローグ入れたりラップ入れたり、それだけかと思いきや、「日常会話入って来たよ」みたいな。今の子供たちが使う言葉を使ったり、無対象でやったり、逆にいろいろありすぎて、演出の方向が定まってないなという感じもしました。
美術的にいうと、世界劇団もそうなんですけど、キューブがね……。なんでみんなキューブを使うんだろう。僕「キューブ排除運動」というのを結構やっているんですが、キューブは便利すぎるんですよ。抽象舞台にキューブで、テーブルにも椅子にも車にもできるんですが、舞台上にあるのはやっぱりキューブ、四角い箱なんです。世界劇団がそこで頑張っていたのは、絵を描いてて、海であるとか魚であるとか。イチニノさんは、椅子はよかったです。あの椅子の雰囲気が、歴史だったり、時間だったりを感じさせて、無対象表現もそれで生きていたのかなと思いました。

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徳永:
私の感じたことをまとめると、ちょっと客観性が足りないんじゃないかと思います。「コンパクトシティ」という単語や、100年という問題が、劇中で非常に大事なものとして語られるわけですけど、それがまず観客と共有できていない。共有するためには、そんなにたくさん台詞はいらないと思います。あと少しの工夫を考えてほしい。今、劇場に演劇を見に来る人は、社会問題のことが気になっている人が大部分なので、ピンと来る人はいくらでもいる。それがもうワンポイントあれば、作品の世界観をもっと共有しやすかったのではないでしょうか。
それと私が気になったのは、胴の長い猫という話になってくると、女優さんふたりがアニメの声優さんっぽい声色になることです。喋り方もなぜか可愛い感じになってしまって、私としては……。テーマはすごく太いことをやってらっしゃるので、気になりました。情感が高まるシーンで、それを安易に盛り上げるようなBGMが流れるということも、気になりました。せっかく杉山さんが「新社会派」とお付けになりましたけれど、描きたいのは大きなテーマだと思いますので、そういった柔らかさをもう少し排除して、太いものを太いまま出してもいいんじゃないかなと私は思いました。

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~イチニノ『なかなおり/やりなおし』~



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