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2019年09月12日

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~世界劇団『紅の魚群、海雲の風よ吹け』~

※掲載の文章は、第10回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際の講評を採録・再構成したものです。

杉山:
非常に僕は好きで素敵な作品だなと思いました。少女の成長の物語で、それをすごく科学的なところから捉えていました。台詞は七五調で、唐十郎とか、野田(秀樹)さんの初期のころの感じがあったりして、アフターチェルフィッチュ(※)、アフター平田オリザの時代に、これがまた戻ってきているということが面白い。と同時に、今までだったら単なる文学的なフレーズで終わるところを、そこに科学が入っているというのが、すごくいいなと思いました。
もうひとつ面白かったのが、台詞の七五調に対して、音楽と身体が作り出すリズムが分離していること。普通だったら台詞と身体は一緒になってくるんですけど、身体の方はどちらかというと音楽とリズムの方に合っていて、そちら側がバックグラウンドを作って、台詞は遊離している感じ。非常にお面白かったし、創作過程にすごく興味を持ちました。
サイエンスポエットだなと思いました。サイエンスなんだけど詩的で、そこがすごく新しい。

※チェルフィッチュ:岡田利規氏が主宰する演劇カンパニー。https://chelfitsch.net/works/

加藤:
まず俳優の皆さんがそれぞれすごくチャーミングで魅力的な方々だなというのが強く印象に残っています。オープニングで「バッ」と出てきた時にお客さんの心をすごい「ギュ」と掴んだ感じというのも客席にいてすごく感じました。
これは個人的な意見なのですが、作中で出てくるライフステップの中に、出産ということが、あたかもみんなに平等にあることのように書かれてしまっていることに、私はちょっと違和感を覚えました。「大人になるってどういうこと」のアンサーとして、「子供を産むってこと」というのがあるのだとしたら、戯曲の中の整合性は取れていたと思うんですが、そのアンサーがない中で、出産というものをライフステップのひとつとして扱ったというのが、ちょっと疑問に残りました。
一番かわいいなって思ったのが、みなさんが、マイクをそっとその前のところに返しに行く仕草で、めちゃくちゃかわいかったです。

市原:
言葉のセレクトが面白くて、俗物っぽい要素が入っていたのがなんか嬉しいという感じがしました。身体が動いていて、出だしで引き込まれました。
ただ最後「大人になるってどういうこと」「大人になるってそんな大したことないわ」みたいな感じだったと思うのですが、そこに到達した嬉しさがあまりなく、それまで素晴らしかった分「なんだ」という感じがしました。私はたとえそれが間違っていたとしても、もっと作者独自の考えをみたかったです。でも言葉の選び方が面白かったなと思います。

我妻:
みなさんすごくチームワークがいいんだなというところを感じました。稽古もいっぱいなさってるんだと思いました。台詞もすごく伝わる言葉を選んでいるなというのと、踊りのグルーヴ感とか、歌であったり、演出的にも色々工夫なさっていると思いました。
ただ、全体の印象でいうと、すごくスムーズにテンポで進みすぎてしまうということがあって、そこが見やすいといえば見やすいんだけれど、「(作品が)あ、終わった。」みたいな感じで、ちょっともったいないなという感じです。踊りでいったら、そういう感情の時に体の動きはどうなるんだろうか、というところを全部振付によって消してしまっているところがあって、そこが気になりました。

乗越:
非常にキュートな作品だと思います。特にお母さん役とドーパミン役のふたりのデュオの体のキレがすごく良かった。
主人公以外は全員顔を白く塗って異形の姿をしている。主人公の第二次性徴の恐れが出発点になっているのはわかるものの、あそこまでの攻撃性は唐突な印象でした。なぜ彼女がそこまで恐れたりあるいは憎しみに近い感情を持っているのかの描写が不足で、いまひとつリアリティとして伝わってこなかった。第二次性徴自体は普遍的なテーマであっても、それにともなう感情は個人的なものなので、そこをもうひとつ掴みとって投げてくれたら、観客はもっと話に入れたのだろうなと思います。
あと衣裳の色が好きでした。南国の蝶々の羽根のような毒々しい感じのものや、お母さんの腕の部分に意味もなくカラーボールが入ってるとか、すごくよかったと思います。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
徳永:
オーディエンス賞おめでとうございます。ただ私は辛口です。何人かの専門審査員の方からも出ていましたように、七五調の台詞とか、ラップを意識した韻の踏み方で、それは個性になっていましたが、デリケートな問題を扱っているのに、リズムを優先させるあまり、すごく雑に終わってしまっている。
加藤さんから出産の問題の指摘がありましたけど、それも含めてこのテーマを、皆さんのやり方でストレートに受け取ると、初潮前後の思春期の女の子の一時的な心身の不安定な状態の物語、で終わっちゃうんですよ。でも本当はそうじゃなくて、女性や思春期に限定されない、人が一生抱えていく問題を扱っているんだと思うんです。さっき(キュイの講評で)話にも出た、大人も子どもも成長しない今の日本の社会の中で「大人になるってどういうこと」というのは、もう全員の問題なんです。それを扱ったにも関わらず、リズムやテンポを優先して内容を深められなかったのはすごくもったいないと思いました。
「大人になるってどういうこと」と自分たちで立てた問いへの答えが「どうでもいいんだわ」というのも、そこに着地するのなら、なぜ彼女は引き籠もったのか、なぜ自分の体の変化に対して、あそこまで恐れや汚れみたいなものを感じたのかということとのバランスが悪いですよね。あそこまで彼女が怯えたことに対する答えとしてはあまりにも雑だし無責任でもある。
「大人になるってどういうこと」は普遍的な問いですが、それをテーマに持ってくるのなら、新しい問いの立て方や自分たちなりの答えを表現の中に織り込まなければいけない。それが成されてなかったと思います。なので、私としては「うーんまだまだ」という感じがしました。

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~世界劇団『紅の魚群、海雲の風よ吹け』~



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