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2019年09月24日

受賞者インタビュー(1)  世界劇団 本坊由華子さん(オーディエンス賞)

・オーディエンス賞を受賞されての、今の率直なご感想はいかがでしょうか。
単純に嬉しい気持ちがありますが、グランプリを獲りたかったなというちょっと悔しい気持ちもあり、なにも引っかからないよりかは良かったかなと思っています。


・世界劇団さんは愛媛を拠点に活動され、医学生の方々を中心にされているとのことですが、普段活動されている時のテーマや、演劇創作におけるコンセプトについて教えてください。
私たちは地方で活動しているということもありまして、周りに他に演劇をしている人たちがたくさんいるわけではないので、それぞれの個性みたいなものが熟成化されやすいのかなとは思います。

私たちの創作に関してのテーマなんですが、元々演劇で食べていくことを目標としていなくて、どちらかというと本業の職業だったり学校生活をきちんとこなしながら創作をすることによって、文化芸術というものがそもそも人間の生活の豊かさみたいなものを形作るものだと考えています。仕事とか勉強があるからこそ演劇活動でも力が発揮できるというか、それが生活の豊かさをもたらすという方向に向きやすいのかなと思います。

もう一つ、単純に劇団に関わるそれぞれが本業の方でかなり忙しく、稽古時間も制約される中でどうやって創作のための時間を捻出していくのか、稽古のスケジュールを合わせていくのかということに関してかなりシビアな状況なので、体力的にも精神的にも追いやられるんです。

たとえば古典的な演劇の作り方で言うところの「演出家が俳優を追い込む」みたいなことがありますよね。それはもちろんパワハラにつながりかねない極限状態まで追い込んで追い込んで、追い込んだ上でベストパフォーマンスを叩き出すという方法が、でも私は現にあると思っているんです。

その意味で、それぞれのシビアな生活の中で、ぎりぎりの極限状態に追い込まれた時に演劇創作でもベストパフォーマンスが叩き出されるという説を信じているんです。

演出家によるパワハラという形ではなくても、たとえば病院での当直がずっと続いていたり学校のテストが続いている中で本番があるという状況は、ある意味ではそれは人間が生活の中でギリギリの極限状況に追い込まれるということにはなるので、いわば健全な形での追い込まれ方をして、それがベストなパフォーマンスを叩き出すという風に考えています。

仕事とか勉強がある中で演劇をしていた方が、私たちはよりよいパフォーマンスができるんじゃないかと。これは世界劇団の生活スタイルであり、創作スタイルの一つでもあるのかなという風には考えています。


・今回作品に参加された方々も、みなさん基本的には本業を別に持っていらっしゃるんですね。
そうです、同じ病院で働く精神科医であったり医学生だったりして、コンクールが終わったらすぐにテスト勉強をしていたりとかしていて(笑)。劇団員は基本的にはみんな同じ大学の出身者ですね。


・今回上演された『紅の魚群、海雲の風よ吹け』について、作品のコンセプト、テーマについてあらためてお聞かせください。
私たちは結構いろんなコンクールに出ていて、その中でここ3年くらいは毎年ツアーを回しているんです。そうしていろんなコンクールに出場していく中で「私たちの表現とは何か」ということだったり、「私たちにとって演劇は何か」ということを提示しなければならないところに来ているという思いが個人的にありました。
30歳になる前までに「世界劇団の演劇とは何なんだ」ということを提示していかなければならないと思っていました。

今回コンクールに参加するにあたって、自分のオリジナル作品でもよいということと、上演審査であるということで、「私たちの特徴はこれだ」というやりたいことを絶対にやるということだけを決めて作った作品です。
身体表現だったり、言葉のリズムだったり、歌とか、空間の演出とか、わたしたちの強みをかなり凝縮して出そうとした作品でした。

テーマとしては女性が生まれてからライフステップを踏んでいく中での人間的な成長であったり、女性としてのステップアップを描けたらと思っていました。

でも講評でも言われたように、やっぱり自分たちのやりたいことをやるという演出的な部分でのこだわりが強いあまりにテーマの部分が若干ないがしろになってしまった部分があったんだなということは思いました。

演出的な身体表現などには大変こだわりをもって創作出来たとは思うんですが、ウエイトの大きな部分が演出で占められてしまった分、「何を伝えたいのか」という演劇的なメッセージの部分ではテーマが発揮されずに終わってしまい、もっと深いところまで行けたはずなのにちょっと惜しいところがあったのではないかと個人的には思います。


・作品におけるテーマの描き方というのはまさに講評会でも専門審査員の方々から言及された部分だったかと思うのですが、今回の講評を受けていまどのようにお考えですか?
たしかに専門審査員の方々の仰ることはすごくよくわかるんです。
特に徳永さんであったり加藤さんから仰っていただいた中に、女性がライフステップを上がっていく中で「出産」というのが当たり前のものとして描かれることに対して引っかかるところがあるというご意見がありましたが、これはとてもよく分かるんです。
ただ私自身「子供が生まれる」ということに関しては学生のころからずっと書き続けてきたテーマであったんです。

その中で「出産」という部分に関して、審査員の方々が社会的・個人的な意味合いにおいてデリケートなもので、女性のライフステップの中で必ずしも必要ではないというとらえ方をされたことに関してすごく分かるんですけど、私としてはどちらかというと杉山さんが仰っていたような”サイエンスポエム”としての「出産」という意味だったんです。

たとえば「卵子と精子が合体して生命体が誕生する」という文章があったなら、それはどんな人でもある種のサイエンスポエムとしてみなさん認識すると思うんですね。

ただそれが「出産」という言葉になるとそれはサイエンスポエムではないのだな、という風に思いました。

私個人としては「卵子と精子が合体して生命体が誕生する」という言葉も「出産」という言葉もどちらもサイエンスポエムとしてこれまで5~6年書いてきたものだったんですけれど、「出産」という言葉に関しては、ある種個人的な事象として、例えば出産をしないという選択をされた女性としての社会的な感情が乗っかる言葉なのだな、と思いました。

これはそういう世の中になってきたというか、社会が変わってきたんだなという印象を受けました。

私としては「出産」という言葉に関しては個人的に大きくは印象が変わることなくサイエンスポエムとしてずっと描いてきたんですが、たぶんここ数年そういうことに関して周りがかなりデリケートになってきたのだな、それに対して発言していいという空気が高まってきたのだろうな、と思いました。どちらかと言うとこれは私自身の変化というより時代の変化だなと思いました。

なのでそれをもっとデリケートに扱った方がいいとは思うんですが、なんというか、その言葉をデリケートに扱ったからと言って問題が解決するわけではないと思っています。

たぶん5年、10年前にはこの戯曲に対してそういったご意見はいただかなかったと思うし、あるいは5年、10年後にこの戯曲を上演したらもっと辛辣なお言葉を浴びせられるのかもしれません。

私は全部サイエンスポエムとして書いてきたけど、そうとはとらえられない時代になってきたというか、そうした時代の変化を感じたように思います。


・世界劇団さんはこれまでツアーや各コンクールで様々な場所で上演されてきたと思うのですが、今回せんがわ劇場で上演してみた印象はいかがでしたか? 
すごい上演しやすい空間だなと思いました。小劇場として環境が非常に整っていますし、私たちはコンクールやコンペティションも合わせるとこれまでに県内・県外合わせて10カ所以上の場所で上演をしてきたのですが、その中でもかなり空間的にやりやすい環境だと思いました。音も跳ね返りやすいですし。

劇場機構としてもそうなんですが、コンクール自体もそうなんですがなるべく一般の市民の方に文化芸術をなるべく浸透させようという試みというか調布市の意思みたいなものは、私の活動にもマッチしているなと感じました。

ある部分で演劇というのはインテリジェンスの高い人達が同じくインテリジェンスの高い人達に向けて作品を発表するものだという風な考え方を持っていらっしゃる方もいるとは思うんです。

でも私はどちらかというと劇場空間というのは教育格差であったり経済格差を全部取っ払うもので、「演劇を上演する」というそのこと自体が「人間を祝う儀式」的な意味があると思ってやっているんです。

なので今回の演劇コンクールの理念もきっとそうだと思うのですが、せんがわ劇場が展開しているアウトリーチ事業からもそういった「演劇の専門家⇔一般の人」という格差をなるべくなくしていこうというような理念が漂っていると感じられて、私にとってとても居心地のいい劇場でした。

演劇をいわゆる「ハイ・アート(高級芸術)」として扱う雰囲気が、ちょっと苦手なんです。確かにクオリティの高い作品を上演することはすごくいいことだと思うんです。ただそれが「ハイ・アート!」という感じになると、かえってその垣根を作り出す作品もあるじゃないですか。なんというか「わかる人にはわかる」というような。

もちろんそういうお芝居はあってもいいのだけれど、それを上演したことで社会的に何か起こしただろうか?ということを考えてしまうんです。
事件的なというか、アクシデントというか、「それで何か起こっただろうか」って考えると何も起こっていないように思えてしまうんです。

個人的にいわゆるそうした「ハイ・アート」とされるような作品に対して「上演をする」ということの勃発感がなくてあまり好きではないんですけれども、そういった中でもせんがわ劇場は一般の市民の方に向けて開けている印象がありますし、そしてそういったなかで社会性が求められている劇場だとも思うので、私はすごく好きで、たぶんそこにフィットしただろうな、とは思いました。



【世界劇団 プロフィール】
医師と医学生の劇団。
代表の本坊由華子は2015年に四国劇王と中国劇王を獲得。2017年に松山・広島・北九州の三都市でツアーを実施し、2018年には利賀演劇人コンクールにて観客賞2位を受賞、松山・東京・三重で三都市ツアーを敢行した。作品創作のみならず、精神科領域で演劇の可能性を模索中。


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