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2019年09月20日

受賞者インタビュー(3)  キュイ 綾門優季さん(劇作家賞)

・今回のファイナリスト6団体、コンクール全体についてはどのような印象を持たれましたか?
やっぱり上演順が重要ですね!
キュイ『蹂躙を蹂躙』は、なんてトップバッターに不向きな作品なんだと思って。

あと公社流体力学は一番いい順番を引きましたよね、大トリで。
今回のコンクールのあの流れだとそりゃグランプリは公社流体力学になるよな、というのは、僕もすべての団体のゲネプロを拝見して感じました。

強いて言えば「あの流れで観たら、公社流体力学は元々の1.2倍くらい面白かったんじゃないか」問題というのがあって(笑)。

公社さんだけで観たときに、どういう印象になるんだろうかというのは気になるところですね。

今回の上演順だと、結構暗めの作品が多くて、みんなもうぐったりしてきたところにめちゃめちゃ笑えるのが来たからみんな「うわあぁぁ!!」ってなったと思うんですよ。
絶対にそれはあって。

その効果を失った状態での公社流体力学を拝見するのが、今から楽しみですね。

キュイはトップバッターということもあって唯一、前の作品に影響されないので、フラットな観客の前で上演するという意味では、いつも通りでした。

すべての団体の舞台稽古を拝見したうえで僕は公社流体力学がグランプリだと思って、実際にグランプリを獲ったので良かったです。
全部観たキュイのスタッフとも話したのですが、観客の方々は自然にそう思うとしても、審査員に恵まれましたよね。
やっぱり公社流体力学に関しては「いやいや笑ったけど!ストップ!ストップ!」という気持ちになる審査員もいて全然おかしくない作風ですからね(笑)。「おもしろいけど、グランプリあげていいのかな」というためらいがナチュラルに生まれる作品だったと思うんですけど、これはもうゴーサインを出した審査員の英断ですね。

本当に知らない才能っていっぱいあるんですね。世界は広いなあ。ちゃんと広い視野を持たなきゃなあ。

申し訳ないんですけど、今回のファイナリストで公社流体力学だけ知らなかったんです。
世界劇団は昨年の利賀村で本坊さんが演出された作品を観ていましたし、イチニノはお名前だけですが確か何かのフェスのチラシで存じ上げていて。劇団速度はこまばアゴラ演劇コンクールへ主宰の野村さんが出場されたので、予選・決勝と上演を拝見して知っていて。

ルサンチカは観たことなかったんですけど、かもめ演劇祭のAプロ観たら全体の審査会がそのまま始まって、Bプロも講評だけ聞いちゃって、しかも今回と同じタイトルの作品を上演されていたので、激しくネタバレしてました。「人、吊るんでしょ?」って(笑)。その時グランプリがルサンチカだったので、不要なまでにめっちゃしっかり聞いてしまっていたので。あのときは、エンニュイ、面白かったけどなあ。残念でした。

公社流体力学だけ、ファイナリストが発表された時に初めてお名前を知りました。
…やられましたね。爆弾でした本当に。いやぁ、文字通りの爆弾でした。

なんで今まで無名だったんだろう…めちゃめちゃ面白かったですよ。
まさかあんなに脚本がしっかりしているとは思いませんでした。「意外と伏線をキッチリ回収していくんだな」と。あれで劇作家賞も公社さんに獲られてたら、涙が止まらなかった可能性ありますね(笑)。
脚本が割と良かったので、劇作家賞も危ないとさえ思いました。


・今回のせんがわ劇場演劇コンクールの観客のみなさんの印象はいかがでしたか?
なんというか、言っていいのかな、社会的にどちらかというと上のほうの階級の方が多くないですか?
『蹂躙を蹂躙』って、社会的に底の人たちが出て来る作品じゃないですか。底っていうか、少なくとも生まれつき恵まれている金持ちの人間の発想ではないだろうと思っているんです。
せんがわ劇場の演劇コンクールを応援している方々や、毎年観に来て支えてくれている方々というのが、いわゆる小劇場演劇をコアに観る層というよりは、文化をしっかり応援している層という印象を受けました。

普段キュイの主なお客さんというのは、そこまでお金があるわけでもなくて、世界に絶望している若者が一定数いて…語弊があるかもしれないけど…(笑)。

そういう意味で言うと、割と裕福な層の方が多いのかな、と。

金がなくて世界に絶望している若い層が『蹂躙を蹂躙』を観たらすべてはわからなくても「うん、うん」と辛さに同意するかもしれないけど、そうじゃないとしたらどうなんだろう。その問題意識が最初からあるかないかは、結構社会階層で区切られてしまうものなのかもな、と思っています。本当はこういうテーマでも、老若男女に伝えられるように出来れば良かったんですけどね。

あと世代差によるものも大きいですよ。自分の年代(1991年生まれ)だと、生まれてきてから社会的にろくなことがなかったと思っています。
それと裕福な時代の日本を経験している層だとまた考え方も違ってくるのかな、と。もちろんすべてが世代論にまとめられるわけではないですけど、とはいえ選挙結果とかみてるとねえ…。その差も結構あるんじゃないかということを、観客の方の反応の差をみていて考えました。


・今回の作品についての各専門審査員からの講評を受けて、いまどのように考えていらっしゃいますか。
加藤さんが「わかりにくいもの」を肯定された講評だったのには勇気づけられました。

そして杉山至さんの舞台美術についての厳しいご意見ですね。
特に今回美術として用いたアヒルの人形についてです。

アヒルについては「ものすごく殴る」ことがめちゃめちゃ多い作品なので、それを本当に俳優を殴って表現していたらドン引きじゃないですか。それが嘘の演技だとしてもです。

でもとにかく数十回は人を殴るシーンが出てくるから、それをどうするか考えた時に、あのかわいいアヒルで、つぶすと「キュー」って鳴って可愛いし微笑ましいんだけど、あれは本当は人間の悲鳴なのだ、という形で間接的に表現するといういいアイディアだと、稽古場では思っていて。演出の得地君が舞台上で観られるものにしてくれたんだと。

『蹂躙を蹂躙』は、戯曲だけ読むとほんとにしんどくて。それを得地君の演出によってポップに、上演として耐えられるものになった。アヒルによって「殴る」ということの暴力性を緩和したのは、僕としては良かったと思ってました。

ただそのアヒルの意味合いであるとか、果たしてこの戯曲を届けるのにその演出が適切であったかということが、今回特に審査員の方からの意見の中心になったかと思います。

それについては、作・演出が分かれているので稽古場で議論を重ねてきて、もちろん演出の得地君の意見も戯曲に入っているし、僕も稽古場で演出をみていたわけだから、もっと稽古場で客観的な目をもってしっかり話し合えればよかったかなと、今なら思います。

稽古場では、アヒルはいいアイディアだと思い込んでいて、そこまで疑義は出ませんでした。


・稽古をご覧にならない劇作家の方もいらっしゃると聞きますが、綾門さんは稽古をご覧になるんですね。

他の劇団への脚本の書き下ろしの場合だと、座組に渡して稽古をすこし観るだけということもありますが、自分のカンパニーだと主宰でもあるので、よほどのことがない限りは行って稽古をみます。

あとはもちろん初稿からまったく変えないわけではないので、稽古の状況に応じて、セリフを書き直したり書き足したりとかします。

一番大きなところでいうと、初稿を上演してみたら28分だった問題というのがあって。「若干足りなくね?」ということになったんです。
「まあ40分ギリギリを狙った方がいいだろう」というのは、昨年のコンクールでコトリ会議がなぜか上演時間が22分でざわついたという話を聞いて思っていたので(笑)、きちっと必要のあるシーンを入れて、膨らませるために細かく書き足したりしましたね。



【キュイ プロフィール】
専属の俳優を持たない、プロデュース・ユニットとして活動中。戯曲は「震災、テロ、無差別殺人など、突発的な天災・人災を主なモチーフとすること」が特徴。『止まらない子供たちが轢かれてゆく』『不眠普及』でせんだい短編戯曲賞大賞を受賞。



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