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2019年09月19日

受賞者インタビュー(2)  キュイ 綾門優季さん(劇作家賞)

・今回上演された『蹂躙を蹂躙』という作品について、作品を書かれていた時に特に大切にしていたコンセプトや、考えていたことについて教えてください。
わかりやすく観客にサービスしないことです。
何故かというと、先程の話とも繋がるんですが、ややこしい事件を簡単に報道してしまっていることがあるんです。そんな簡単にしてしまっていいのか、というぐらいに。

ニュースで伝える時でも、特集でも組まない限りは、ひとつの事件に割かれる時間はせいぜい3分とか5分とかです。
そうなると、本来難解であるはずの事件を「こうしてこうしてこうなったからこうなりました、以上」という短いあらすじ紹介のような報道になってしまっていて。それを疑問も持たずに、受け入れてしまっているひともいます。

それこそ興味がなければ京アニの事件も登戸の事件も、「知ってる」っていってもスマホの画面上部に一瞬表示される、ニュース速報の一行で終わってしまっているかもしれないし、そこで止まっている人も実際多いと思うんです。

『蹂躙を蹂躙』を書いた時点で僕が調べていたのは、ヒンターカイフェック事件※という1922年のドイツで起きた未解決事件のことです。
(※ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E4%BA%8B%E4%BB%B6

その頃のドイツ警察が現代よりも発達していなかったこともあって、一家が惨殺されたのに、遂に犯人が捕まらなかったという凶悪な事件でした。
断片的な証拠と、そこで犯人が何をしたかという行動の痕跡がおぼろげにあってもそれが証拠に繋がらず、いったい何が起こったのかを後から調べてもはっきりとはわからないままだったそうです。

もうひとつは座間で起きた連続殺人事件※です。あの事件のことが僕にとってはかなり重要でした。そしてそのあとに登戸の殺傷事件※2 が起きて、そのことについては稽古場でもかなり議論になりました。
(※ 座間9遺体殺人事件 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%A7%E9%96%939%E9%81%BA%E4%BD%93%E4%BA%8B%E4%BB%B6
※2 2019年5月に川崎市登戸で発生した通り魔殺傷事件 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%B4%8E%E6%AE%BA%E5%82%B7%E4%BA%8B%E4%BB%B6 

というのは、登戸の事件が起きた時点で戯曲は8割出来上がっていたんです。なので、そのあとは2割しか書いていないから、全く参考にしなかったとは言わないまでも、偶然作品がそれにもともと近い内容を扱っていたんですね。

俳優から、戯曲の初稿が届いた時点で「(事件と)近すぎるんじゃないか」という意見が出ました。登戸の事件が起きてから書いたわけではない、たまたま前から準備していた作品が、実際の事件に似てしまっただけだ、ということは分かるけれど、それにしても今これを上演するということに対して「大丈夫なのか」ということについて、稽古場で議論にはなりました。

結局のところ、セリフを変えることはしませんでした。
それによってマイルドにするとか、事件を想起させないように話の筋を変更するということはしなかったので、構想していたままの戯曲を、そのまま上演することになりました。

でも、やっぱりお客さんの多くは「なんでこんなにわかりにくいのか」と思ったみたいです。想像以上に何も伝わらなかった。技術不足でした。ここは難しいところですが、わかりやすいから伝わる、わけじゃないと思います。わかりにくくても十全に伝えられることがあります。

ただやっぱり今回執筆にあたっていろいろ調べていて思うのは、その時の犯人の精神状態が、一行で説明できるはずがないということです。一行で説明出来ることは、説明出来てるんじゃなくて、必要な部分を省略しているんですよね。

例えば、僕は京アニの事件が起きた日のTwitterがめちゃくちゃ荒れたんですが、あれはもう何かを書かないことにはどうしようもない精神状態だったが、しかし激しく混乱していて、自分の中で結論もまとまっていないのに、ただひたすら喋ってしまったという感じだったんですね。

そうすると、一貫していないんです。「こうかもしれないし、こうかもしれないし、ああ、でもこうかも、いやでもちがうちがう、あれがあるから…」という感じでいろんなものが、混ざりあった形で出てきてしまう。

そういう極限の精神状態になった人というのは、複数の感情がまとまりを持たずに入り乱れて出てきてしまう可能性が高い。
それをむりやり落ち着けようとすると、短絡的な論理に行き着いてしまう。

『蹂躙を蹂躙』の中でも最終的に「世界を殺すか、世界に殺されるか」という二者択一に陥るんですけどそんな訳はなくて。そんな世界対自分なんて、単純なものじゃないはず。セカイ系の主人公じゃないんですよ。多くのひとは。

強制的にものごとを単純化してしまうことがとても危険。その意味で『蹂躙を蹂躙』のラストシーンで、得地君の演出で舞台上で恐らく死体として倒されるパイプ椅子が、すべて同じパイプ椅子であるということが、演出上重要なことなのではないかと、客観的に観て思っていました。

人間は本来別々のものなんですよね。ひとりひとり姿かたちも違って、年齢も性別も出自も、バラバラであるはずなのに。
『蹂躙を蹂躙』で描かれているのは犯人の内面世界ですよね。犯人視点のみで書かれている。その犯人にとって、周囲の世界や人々があのように見えてしまっていることがヤバいんです。グラデーションを失っている。

あのパイプ椅子のシーンを観てどういう人が死んだのか、子供が死んだのか大人が死んだのか、男女比はどうだったのかということについて、観客は何も分からないわけですよね。たくさんのひとが死んだこと以外ほとんどわからない。ただ同じパイプ椅子だけがランダムに倒れていく。
もし犯人とされる人間が、あれぐらいのレベルで他者を捉えているのだとしたら、非常にヤバい。

しかし、そのような精神状態になるということが、どういう思考回路をもって生まれてきたとしても起こり得る可能性があるとしたら、どうしてそうなるのか、ということを考えていきたいんです。私たちに延長線上に、犯人がいるとしたら。

そしてそれが、今の時点では、あのような形になったんです。


・今回のせんがわ劇場演劇コンクールでキュイ・綾門優季の作品を初めてご覧になった方も多くいたのではないかという印象を持たれたという話もありましたが、その後の反響も含めて今回のせんがわ劇場での上演の印象はいかがでしたか? 
コンクールに出て良かったと思うことの一つは、客席がポカーンとしてる、ということを理解したことですね。旗揚げ当時を思い出しました。

旗揚げから9年経っているから、キュイの公演で一見さんは少なくなってきている訳です。前から観てくださっている方が大部分で、そこに加えて、初めて観にいらして下さる方もぼちぼちいる、という比率なんです。いつもなら。

コンクールではたぶんその逆で、前から観に来てくださっている方もいるけれども、おそらく今回初めてキュイを観た方のほうが全体的には多かったと思います。

上演自体は決して出来の悪いものではなかったし、通し稽古やゲネプロと比べても本番は最もよいパフォーマンスだったというのが座組の中での一致した見解なので、今回の結果について悔いはありません。

そして元々「わかりやすくしない」ことを目指したとはいえ、審査員の方からのご指摘があった通り、想像以上に客席と舞台との距離が出来たまま埋まらなかったのは、やっぱり思慮が浅かったとも思います。

伝わらなくていいとは思っていないんです。そういう意味では伝わらないにも程がありましたね。

だから、あそこでポカーンとしてしまった人たちがもう一度キュイを観に来た時に、もっと伝わるといいな、と素朴に思います。



【キュイ プロフィール】
専属の俳優を持たない、プロデュース・ユニットとして活動中。戯曲は「震災、テロ、無差別殺人など、突発的な天災・人災を主なモチーフとすること」が特徴。『止まらない子供たちが轢かれてゆく』『不眠普及』でせんだい短編戯曲賞大賞を受賞。


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    Posted by せんがわ劇場 at 15:13 │演劇コンクール

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