2019年09月15日
受賞者インタビュー(1) ルサンチカ 河井朗さん(演出家賞)
・今回演出家賞を受賞されましたが、まずは率直な受賞の感想をお聞かせください。
そうですね、嬉しくも悔しいという気持ちがあります、やるからにはグランプリが獲りたいなとは思っていたんですけど。
それでもこの作品が審査員の皆さんやいろんなお客様に認められたのは、すごく光栄に思います。
・今回上演された『PIPE DREAM』という作品はもともと京都府立芸術文化センターで2019年~2021年まで3年間にわたる支援プログラムの中で創作された作品だということですが、そもそもルサンチカさんの普段の活動のテーマや創作時のコンセプトを教えてください。
僕は劇団じゃなくてユニットという扱いなので、基本的には僕個人で制作をしています。
作品のテーマ性としては主に「人がこれからをどうやって生きていくか」ということを考えていて、僕が抱えている問題を、そのとき集まったクリエイションメンバーとともにどう作品にしていくかということを考えながら活動しています。
・今回上演した『PIPE DREAM』という作品について、特に強く抱いていたテーマやコンセプトについて教えてください。
「人の話をどうやって聞けるだろうか」ということをずっと考えていました。
それと植物状態になった私の祖母のことを考えていました。
相模原障害者施設殺傷事件の加害者の男が「意思の疎通をとれない人間は殺してもいい」ということを言っていて、
その言葉を聞いた時に、だとすると僕たちは赤ちゃんを殺さなければならないし、犬も殺さなければならないし、植物状態の人のことも殺さなくちゃいけないなということを考えてしまって。
そうすると私の祖母は死んでしまうな、とも思ってしまったんです。
それで「意思の疎通」というテーマが一つ大きくありました。
もう一つは、スウェーデンで流行っている「生存放棄症候群※」という難病のことでした。
その病気は植物状態になったわけではなく、ただただ眠りから覚めないという病気なんです。
さきほどの「意思の疎通をとれない人間は殺してもいい」という前提からすると、その人たちも殺されてしまうな、と思って。
でも僕は、その人たちは今を生きることを保留にしたんだなと思ったんです。
(※20年前からスウェーデンでのみ発生している難病。亡命を望む難民のこども達に多く見られ、強い精神的ストレスが原因と考えられている。)
今の時勢は生きることに関して様々な決断を自己責任というもので求められる時代だなと思うんですが、
それを一旦自己責任で解決できないものは保留にしてもいいのではないか、という思いがありました。
なので「意思の疎通」と、「どうやって今の生き方を保留にすることができるか」ということを考えるために今回の作品を作りました。
・今回の「PIPE DREAM」という作品では、舞台上で人が宙づりにされているというのが多くの観客にとって特に印象的だったのではないかと思います。また審査会でも杉山至さんが言及されていましたが「人の呼吸を思わせる照明の明滅」というのも今回観る者に強い印象を与えるものでした。今回演出をされた中で、そうした視覚的に印象的な手法を選んでいったのにはどのような狙いがあったのでしょうか。
たとえば人は植物状態になって寝たきりで長い間動かないと、関節が動かない拘縮状態になってしまうんですね。
そうして地に足をついて動くことができない、関節が固くなる、動けないという現象をどうやったら舞台上で意図的に作れるかなと考えたときに、一度空を飛ばす(宙に吊り上げる)べきかなと考えました。
人はやはり地に足を付かない限り、自立運動は出来ないのだと今回の作品で改めて自覚しました。
そういった意味で、ハーネスを着て空に飛ばすという方法を選びました。
照明に関しては、京都府立文化芸術会館の照明スタッフの方と話した時に、ずっと動き続けるチェイスの照明がとても自然な流れでいいのではないかというプランがあったので、以来ずっとそのデザインで上演しています。
意識的に照明だけを観てほしいというわけではもちろんなくて、舞台上で自然な流れでなにが起こるかわからないという状態を作り出せたらいいなと思っています。
ただ上演中に起きる照明の動きは、実はすべて偶然だったりもするんですけど(笑)。
・ありがとうございます。先程お話のなかにも出ましたが、元々この作品は京都で製作され、今年の3月には神奈川かもめ「短編演劇」フェスティバルで、そして今回のコンクールと上演を重ねられてきましたが、今回の上演を終えてみての手ごたえや印象はいかがでしょうか。
今回この作品は5回目の公演で、初演は僕一人だけで舞台に立って、そこからどんどんいろんな人とクリエイションを重ねてきました。
せんがわでの上演は「どうやって人は眠りにつくのか」「死んでいくのか」ということについて考える旅みたいなものだなと思えました。もちろんこれからもずっと続いては行くんですけど、今回で一区切りをつけられたかなと思いました。
【ルサンチカ プロフィール】
河井朗が主宰、演出を行う演劇カンパニー。物事の色々をひとまず両手ですくい取ってみて、その時にこぼれ落ちた側に焦点を当てて作品をつくる。主に既成戯曲、小説、インタビューなどを用いて舞台作品を制作する。
そうですね、嬉しくも悔しいという気持ちがあります、やるからにはグランプリが獲りたいなとは思っていたんですけど。
それでもこの作品が審査員の皆さんやいろんなお客様に認められたのは、すごく光栄に思います。
・今回上演された『PIPE DREAM』という作品はもともと京都府立芸術文化センターで2019年~2021年まで3年間にわたる支援プログラムの中で創作された作品だということですが、そもそもルサンチカさんの普段の活動のテーマや創作時のコンセプトを教えてください。
僕は劇団じゃなくてユニットという扱いなので、基本的には僕個人で制作をしています。
作品のテーマ性としては主に「人がこれからをどうやって生きていくか」ということを考えていて、僕が抱えている問題を、そのとき集まったクリエイションメンバーとともにどう作品にしていくかということを考えながら活動しています。
・今回上演した『PIPE DREAM』という作品について、特に強く抱いていたテーマやコンセプトについて教えてください。
「人の話をどうやって聞けるだろうか」ということをずっと考えていました。
それと植物状態になった私の祖母のことを考えていました。
相模原障害者施設殺傷事件の加害者の男が「意思の疎通をとれない人間は殺してもいい」ということを言っていて、
その言葉を聞いた時に、だとすると僕たちは赤ちゃんを殺さなければならないし、犬も殺さなければならないし、植物状態の人のことも殺さなくちゃいけないなということを考えてしまって。
そうすると私の祖母は死んでしまうな、とも思ってしまったんです。
それで「意思の疎通」というテーマが一つ大きくありました。
もう一つは、スウェーデンで流行っている「生存放棄症候群※」という難病のことでした。
その病気は植物状態になったわけではなく、ただただ眠りから覚めないという病気なんです。
さきほどの「意思の疎通をとれない人間は殺してもいい」という前提からすると、その人たちも殺されてしまうな、と思って。
でも僕は、その人たちは今を生きることを保留にしたんだなと思ったんです。
(※20年前からスウェーデンでのみ発生している難病。亡命を望む難民のこども達に多く見られ、強い精神的ストレスが原因と考えられている。)
今の時勢は生きることに関して様々な決断を自己責任というもので求められる時代だなと思うんですが、
それを一旦自己責任で解決できないものは保留にしてもいいのではないか、という思いがありました。
なので「意思の疎通」と、「どうやって今の生き方を保留にすることができるか」ということを考えるために今回の作品を作りました。
・今回の「PIPE DREAM」という作品では、舞台上で人が宙づりにされているというのが多くの観客にとって特に印象的だったのではないかと思います。また審査会でも杉山至さんが言及されていましたが「人の呼吸を思わせる照明の明滅」というのも今回観る者に強い印象を与えるものでした。今回演出をされた中で、そうした視覚的に印象的な手法を選んでいったのにはどのような狙いがあったのでしょうか。
たとえば人は植物状態になって寝たきりで長い間動かないと、関節が動かない拘縮状態になってしまうんですね。
そうして地に足をついて動くことができない、関節が固くなる、動けないという現象をどうやったら舞台上で意図的に作れるかなと考えたときに、一度空を飛ばす(宙に吊り上げる)べきかなと考えました。
人はやはり地に足を付かない限り、自立運動は出来ないのだと今回の作品で改めて自覚しました。
そういった意味で、ハーネスを着て空に飛ばすという方法を選びました。
照明に関しては、京都府立文化芸術会館の照明スタッフの方と話した時に、ずっと動き続けるチェイスの照明がとても自然な流れでいいのではないかというプランがあったので、以来ずっとそのデザインで上演しています。
意識的に照明だけを観てほしいというわけではもちろんなくて、舞台上で自然な流れでなにが起こるかわからないという状態を作り出せたらいいなと思っています。
ただ上演中に起きる照明の動きは、実はすべて偶然だったりもするんですけど(笑)。
・ありがとうございます。先程お話のなかにも出ましたが、元々この作品は京都で製作され、今年の3月には神奈川かもめ「短編演劇」フェスティバルで、そして今回のコンクールと上演を重ねられてきましたが、今回の上演を終えてみての手ごたえや印象はいかがでしょうか。
今回この作品は5回目の公演で、初演は僕一人だけで舞台に立って、そこからどんどんいろんな人とクリエイションを重ねてきました。
せんがわでの上演は「どうやって人は眠りにつくのか」「死んでいくのか」ということについて考える旅みたいなものだなと思えました。もちろんこれからもずっと続いては行くんですけど、今回で一区切りをつけられたかなと思いました。
【ルサンチカ プロフィール】
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