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2017年10月03日

受賞者インタビュー(5)  Spacenotblank 中澤陽さん(グランプリ)


受賞者インタビュー(5)  Spacenotblank 中澤陽さん(グランプリ)

改めてグランプリ受賞、おめでとうございます。今回グランプリと聞いていかがでしたでしょうか。

中澤 最初にこのコンクールに応募した時は、「言葉」を使った作品をやろうというのだけが前提にありました。
またコンクールのキャッチコピーにある「賞だけじゃない」っていうことも含めて、これまでの作品も基本的には作品を新しい観客に見てもらうことに価値を感じていて、明確に賞を取るために作品を作っている感覚がなかったので、最初聞いた時には純粋に驚きました。
みんなは喜んでくれていたのですが、僕は、「あ、そうなんだ」という感じでフラットな感情で受け取ってしまいました。
グランプリを受賞したことだけではなく、審査員や新しい観客の方々に見ていただいて、ひとつの舞台作品として価値のあるものとして評価して頂いたということに対して、すごく嬉しく思っています。

演劇コンクールは前からご存知でしたか?

中澤 ダンス界隈でスズキ拓朗さんのお名前はよく拝見するのですが、スズキさんが過去にこのコンクールで受賞されたということをどこかで聞いた程度でした。毎年やっているということは知りませんでした。

今回4団体くらいが身体表現を用いた表現方法だったんですが、どんな印象をもたれましたか。

中澤 個人的には良いんじゃないかなと思います。演劇っていってもピナ・バウシュ(※1)のタンツ・テアターのようにダンスでもあり演劇でもあるっていうジャンルもあれば、野田秀樹さん(※2)のフィジカルシアター(※3)とかもありますし、身体表現を強く用いたものが多いってことに関しては、良いことかなと思います。



最近は言葉を使わない演劇が主流なんですか?

中澤 僕の場合は、ピナ・バウシュのカンパニーに在籍していたことのあるファビアン・プリオヴィルさんの作品に出演した経験が大きくて。その制作手法や完成する舞台作品から受け取ったものが大きいと思っています。
身体表現が主流かっていうと難しいですけれど、日本には野田秀樹さんがいて、フィジカルシアターも身体をめちゃくちゃ用いた演劇だと思いますし。
言葉を用いないっていうより関係性を描くっていう意味では、ダンスというフォーマットをより豊かな形式にして観客に伝えるためにはどうしたらよいのかを考えた上で、演劇の要素を加えたっていう部分があると思っています。例えばふたりのキャラクターがいて、そのふたりが何らかの関係性にあるということを言葉にしなくても、その関係性を身体表現と空間配置によって表現することに軸を置いているのは、観客の想像力を信頼しているからだと思っています。
僕たちの作品は身体的な要素は多いんですが、今回の作品は振付は一切していません。その代わりに「物」に依存するということをしていて、「物」をこういう風に使ったらこういう動きが生まれる。観客と出演者の立場をよりフラットにするのと同時に、舞台上にある「物」とか「空間」とか「言葉」も全部同じレベルに引き上げることをしたいと思っていました。
出演者の方々は動きに対して「物」をあてはめるんじゃなくて、「物」をどういう風に使ったらどういう動きが生まれるのかを常に考えて「物」を使っています。だから身体表現というよりも、「言葉」はしゃべらなくちゃならないけど、それとまったく違うベクトルの負荷がかかっているという状態を生み出したかったんです。なので「言葉」と「動作」は関係性の違うベクトルをなぞっています。

「物」を出演者と同等に見ているということでしょうか。

中澤 身体表現という意味では、そういう流れの上にあるのかなと感じています。やはり出演者がいて、それに対して「物」は使われるものというのが固定概念としてある気がしていて、それを打破していきたいという想いがシンプルにあります。

「物」という具体的な部分があるのですが、作品を通した向こうにある社会と自分たちとの関係はどう考えているのでしょうか。

中澤 もちろん僕たちの方が明確に社会を捉えていかなくちゃいけないということもあります。ですが、僕たちは、観客が持っているそれぞれの社会に対する考え方に繋げたいと思っています。
「僕たちの考える社会との繋がりはこういうものです」と明確に示したいというより、作品を見た観客の人たちがそれぞれに、育ってきた環境や、その人が今いるリアルタイムの社会、その人がどういう社会との関わり方をしているかによって作品の見え方や捉え方が変わってくるようなものを作りたいと思っています。
だから作品そのものが社会と繋がっていて、僕たちの考える定義やメッセージみたいなものをはめ込みたいのではなくて、観客が入り込める隙間をもっと作っていかなくちゃいけないという気はしています。それが課題でもあるし、けれど課題として捉え過ぎてしまうと、それを受け入れなくちゃいけないことになってしまう。だからどっちでもありたいです。課題として考えなくちゃいけないし、そうじゃない方向も考えなくちゃいけないという感じです。

創造の方向としてこれからという感じですね。

中澤 そうですね。もちろん自分たちのやりたいことを単純に示すだけではいけないし、演劇を見ることの公共性や、観客がそれぞれの人生とどうリンクさせるのかを考えたり。「演劇を見る」ことで観客が自分自身の経験してきたことや記憶だったり、社会とどう繋がっているのかを引き出していくような作品を作っていきたいと思っています。作品の内側のことだけじゃなく、外側のことも両方から考えることで、観客の純粋な状態や、創造性を引き出せると思います。
出演者からできることを引き出すことも、出演者の記憶していることやしゃべり方とか、培ってきたものを引き出していくことと同じで、観客にもそれまでの人生があって、家を出て劇場に来て作品を見るまでの過程があるわけじゃないですか。その過程をどう観客が自分で振り返るか。そして作品を見て家に帰りそれ以降の人生を過ごしていく中で、作品を通過した自分と通過しなかった自分の違いを考えてもらえるような作品を作りたいなと思っています。

グランプリ公演が来年の5月なのですが、何かお考えですか。

中澤 僕と小野彩加のふたりで人を探して集めますが、コンクールの時よりは人数が多い長編作品を作ろうと思っています。小野はコンクールにはスケジュールの都合で出演できなかったのですが、来年は出演します。小野が加わることで、身体的な要素がより加わってくると思います。

今日はありがとうございました。

Photo: Dan Åke Carlsson

※1 ドイツのコンテンポラリー・ダンスの振付家。ドイツ表現主義舞踊の権威であるヨースの影響を色濃く受け継ぎながら、演劇的手法を取り入れた独自の舞踊芸術は演劇とダンスの融合とも言われ、彼女自身は「タンツ・テアター」と呼ぶ。
※2 日本の俳優、劇作家、演出家。大きな特徴は「言葉遊び」と「リメイク」。使い古された言葉、古典と呼ばれる作品に新しい命を吹き込み、独創的でスペクタクルな舞台を創造する。
※3 いわゆるセリフ劇に対して、役者の肉体を表現の中心においた一連の演劇。




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