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2015年03月10日

親と子のクリスマス・メルヘン「幸福な王子」を鑑賞して 

12/18~12/22日に行われた親と子のクリスマス・メルヘン「幸福な王子」の様子をライターであり、市民サポーターでもある
才目さんによるレポートでお届けします。

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せんがわ劇場 年末恒例の「親と子のクリスマス・メルヘン」。
2014年度はオスカー・ワイルド原作の『幸福な王子』が上演されました(公演日程:2014年12月18日~12月22日)。
演出はシアターモーメンツ主宰の佐川大輔氏。
この美しい物語を、演出家は「巧みな演出術」を駆使して、大人にも子供にも印象深い素晴らしい劇に仕立てあげました。




親と子のクリスマス・メルヘン「幸福な王子」を鑑賞して 

演出家が駆使する「巧みな演出術」とは、一つの役を役者全員が演じ、
場面ごとに役者が次々とめまぐるしく交替していくシアターモーメンツ独特の手法です。

稽古の過程から「役」を固定せず、キャストチェンジを繰り返しながら、各シーンの最適な形を作り込んでいきます。
出演するのは、オーディションで選ばれた役者を含む、総勢6名の俳優たち。即興練習やワークショップによって鍛えられ、本稽古に臨みました。

彼らの持ち味や個性を存分に引き出し、優れた身体表現とごくシンプルな小道具の「見立て」によって、
寓意にあふれた舞台が創造されていきます。

役者の持ち味を生かしていくため、この舞台はメンバーによって毎回違った仕上がりになります。
「シアターモーメンツの『幸福な王子』は10年にのぼる上演実績をもちます」(佐川氏)。
この間たゆみなく進化をつづけてきたのは、こうした独特の演出手法の賜物でもあります。


さて、今回の『幸福な王子』の舞台。
せんがわ劇場の空間をフルに使い切り、
柔軟な演出と俳優の皆さんの多彩な表現力によって、「知的で透明度の高い舞台」が展開されていきます。
「ツバメ役は誰、王子役は誰…」。そんな約束事は、舞台上の素晴らしい瞬間瞬間(モーメンツ)の連続で吹き飛んでしまいます。
まったく無駄のない見事なステージに、観客の想像力は最大限に刺激され、子どもたちも劇の世界に魂と体ごと引き込まれていくようでした。


楽しいシーンも盛りだくさんです。
ツバメが川辺に生育する葦(あし)に恋をして振られる場面、いきなり始まる妖怪ウォッチ第一体操や観客とやりとりする日替わりナゾナゾ…。
どの場面もしっかりエンターテイメントしていて飽きさせません。
これらをお子様向けの観客サービスと見る方もいるかもしれませんが、決して劇のテーマを損なうものではありません。
むしろ、舞台と客席の身体的な一体感を高め、これら楽しいひと時の残像が、後半、劇のテーマをより切なく際立たせていくのです。


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親と子のクリスマス・メルヘン「幸福な王子」を鑑賞して 

劇の後半、シアターモーメンツの中原くれあさんがツバメを演じた場面は、特に感銘深いものでした。
「仲間のいる南の暖かい国へ行かなくちゃ」というツバメを押しとどめ、王子は頼み事をします。
マッチ売りの少女がいる貧しい家庭に自分の「サファイアの目」を引き抜いて届けてきてほしい、と。
陽気だったツバメは驚き、「そんなことボクにはできないよぉ、そんなことボクにはできないよぉ…」と訴え悩み、激しく嘆きます。

この時、王子役は残りの役者が次々チェンジしながら、それぞれ個性的な演じ方でツバメを説得します。
ひとつの役を全員で演じる手法が生かされる場面です。

キラキラ輝く王子の「サファイアの目」を引き抜いたとき、ピーンという音とともに、王子を演じた全員が目を手で押さえます。
澄み切った悲しみが舞台から客席に広がっていきます。
そして不幸だった家族が幸せに包まれると、ツバメは「なぜだろう、外は寒いのに心はあったかいよぉ」と素直に喜び眠りこけます。

この「くれあ=ツバメ」のあまりに純真な姿に子供たちの心はわしづかみにされ、大人たちも涙を流して見入ります。
原作者のオスカー・ワイルドは19世紀末を生きた名うての皮肉屋です。『幸福な王子』にも貧困・格差など現代社会の歪がたっぷり映し出されています。

最後に「神」によって救われる王子とツバメの魂。その美しくも悲しいテーマの真髄が、こうして観客の心に届けられていくのです。


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親と子のクリスマス・メルヘン「幸福な王子」を鑑賞して 

ところで、せんがわ劇場のクリスマス・メルヘン公演では、エンディングにサンタクロースが登場することが恒例となっています。
今年も劇の終わりに楽しいサンタさんが登場して、子供たちにクリスマス・プレゼントを手渡します。
イラストコンクールに入賞したイラストで構成した『幸福な王子』の絵本もプレゼントされました。
名作の感銘とともに、子供たちにとってひときわ思い出深いクリスマスになったことでしょう。

シアターモーメンツ流の演出術が生きるメルヘンや寓話的な作品はいくつもあります。
たとえば、ポール・ギャリコの名作ファンタジー『雪のひとひら』などは第一に観てみたい作品のひとつです。
2013年度のクリスマス・メルヘン公演『青い鳥』(メーテルリンク作)は、「幸福」のありかを探す象徴的な作品で、ピアノの生演奏を加えた素敵なステージでした。


せんがわ劇場のスタッフは素晴らしい舞台の創造に取り組み、観客の皆さんに届けるための努力を積み重ねています。
こうした素晴らしい企画をぜひ今後も継続していただくとともに、より多くの市民や子供たちが生の舞台を観て、かけがえのない時間と感動を共有していただけたらと思います。 

 
(取材・文/ライター 才目)


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