2015年02月26日
せんがわシアター121 Vol.4 『紙屋悦子の青春』再演を鑑賞して
12/4~12/7日に行われた、せんがわシアター121 Vol.4 「紙屋悦子の青春」の様子をライターであり、市民サポーターでもある
才目さんによるレポートでお届けします。
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好評の初演から1年。
あの『紙屋悦子の青春』がパワーアップして還ってきました(作:松田正隆、演出:越光照文)。
本再演では海軍士官の明石・永与役が交替して劇に新風を吹き込むかたわら、
骨格を支える悦子と紙屋家・兄夫婦の芝居はさらに厚みと実在感を増し、
戦後を生き抜いた老悦子も能でいう「シテ」の役割を引き受けられるまでに成長しました。
●

「再演」の難しさは、言うまでもなく、「初演をいかに超えるか」です。
本作において初演を超えるためになされた努力の多くは、役者・スタッフの全員がいかに劇のテーマに「切実になれるか」でした。
堅固な劇構造をもつ本作で、リアリティをさらに追求すると同時に、
演出家は「切実さ」という意味でのアクチュアリティをより深化させる演出の数々を施します。
「リアリティにこだわりすぎるとアクチュアリティ(切実さ)が薄くなる。
アクチュアリティばかりでは、一人よがりとなり、劇のリアリティが後退する」(越光氏)。
リアリティとアクチュアリティ。その高い次元でのバランスにより、
紙屋家茶の間での何気ないやり取り、日常のセリフからも、時代を問う「力」が生み出されていきます。
劇中、説明的なセリフの量は少なく、それがゆえに観客が受け取る情報、語られない思いとしての「表出」はきわめて膨大です。
ラストのシーン。
老悦子と青春時代の悦子がともに「ザザー、ザザー」という波の音に耳を澄まし、散り始めた桜の大木がシルエットで臨在します。
この美しいオープンエンディングで観客は舞台から溢れ出てくる「表出」の何たるかを知ります。
「だから、私たちは再び戦争の過ちを繰り返してはいけないのだ…」。
このメッセージが心に確かな像を結んだ時、
観客は戦争で失われた無数の青春に涙し、劇場は誓いの拍手に包まれるのです。
●●

わが国の近代リアリズム演劇は小山内薫に始まり、100年の歴史を重ねてきました。
桐朋学園芸術短期大学学長であり、演出家として教育指導に当たる越光氏は、
「現代演劇は近代リアリズム演劇100年の歴史を捉え返し、次代に継承していくべき責務をもっています」と、日頃から強い使命感を示します。
本作は、「近代」を捉え返す視座だけでなく、『清経』など世阿弥の能に見られる中世以来の舞台形式のパワーを秘め、それらを確実に継承しています。
その意味で、本作は現代劇のひとつの到達点を示す舞台成果であるといっても過言ではないでしょう。
●●●

戦後70年を経た今、私たちは「平和」を考えるとき、つねにこの舞台に思いを馳せることでしょう。
こうした素晴らしい舞台を「共有」できることこそ、何ものにも代えがたい文化であり、芸術のもつ意義なのです。
もちろん、こうした高い質の演劇を創り上げることは容易ではありません。
取り組まれた皆さんの労をねぎらうととともに、身近な公共劇場でこのように素晴らしい作品が創造され、楽しめることを喜びたいと思います。
(取材・文/ライター 才目)
才目さんによるレポートでお届けします。
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好評の初演から1年。
あの『紙屋悦子の青春』がパワーアップして還ってきました(作:松田正隆、演出:越光照文)。
本再演では海軍士官の明石・永与役が交替して劇に新風を吹き込むかたわら、
骨格を支える悦子と紙屋家・兄夫婦の芝居はさらに厚みと実在感を増し、
戦後を生き抜いた老悦子も能でいう「シテ」の役割を引き受けられるまでに成長しました。
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「再演」の難しさは、言うまでもなく、「初演をいかに超えるか」です。
本作において初演を超えるためになされた努力の多くは、役者・スタッフの全員がいかに劇のテーマに「切実になれるか」でした。
堅固な劇構造をもつ本作で、リアリティをさらに追求すると同時に、
演出家は「切実さ」という意味でのアクチュアリティをより深化させる演出の数々を施します。
「リアリティにこだわりすぎるとアクチュアリティ(切実さ)が薄くなる。
アクチュアリティばかりでは、一人よがりとなり、劇のリアリティが後退する」(越光氏)。
リアリティとアクチュアリティ。その高い次元でのバランスにより、
紙屋家茶の間での何気ないやり取り、日常のセリフからも、時代を問う「力」が生み出されていきます。
劇中、説明的なセリフの量は少なく、それがゆえに観客が受け取る情報、語られない思いとしての「表出」はきわめて膨大です。
ラストのシーン。
老悦子と青春時代の悦子がともに「ザザー、ザザー」という波の音に耳を澄まし、散り始めた桜の大木がシルエットで臨在します。
この美しいオープンエンディングで観客は舞台から溢れ出てくる「表出」の何たるかを知ります。
「だから、私たちは再び戦争の過ちを繰り返してはいけないのだ…」。
このメッセージが心に確かな像を結んだ時、
観客は戦争で失われた無数の青春に涙し、劇場は誓いの拍手に包まれるのです。
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わが国の近代リアリズム演劇は小山内薫に始まり、100年の歴史を重ねてきました。
桐朋学園芸術短期大学学長であり、演出家として教育指導に当たる越光氏は、
「現代演劇は近代リアリズム演劇100年の歴史を捉え返し、次代に継承していくべき責務をもっています」と、日頃から強い使命感を示します。
本作は、「近代」を捉え返す視座だけでなく、『清経』など世阿弥の能に見られる中世以来の舞台形式のパワーを秘め、それらを確実に継承しています。
その意味で、本作は現代劇のひとつの到達点を示す舞台成果であるといっても過言ではないでしょう。
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戦後70年を経た今、私たちは「平和」を考えるとき、つねにこの舞台に思いを馳せることでしょう。
こうした素晴らしい舞台を「共有」できることこそ、何ものにも代えがたい文化であり、芸術のもつ意義なのです。
もちろん、こうした高い質の演劇を創り上げることは容易ではありません。
取り組まれた皆さんの労をねぎらうととともに、身近な公共劇場でこのように素晴らしい作品が創造され、楽しめることを喜びたいと思います。
(取材・文/ライター 才目)
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