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2015年02月11日

サンデー・マティネ・コンサートPlus+ Vol.8 ストラヴィンスキー作曲、音楽劇『兵士の物語』

1月18日に行われた、「サンデー・マティネ・コンサートPlus【兵士の物語】」の様子をライターであり、市民サポーターでもある才目さんによるレポートでお届けします。

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「サンデー・マティネ・コンサート plus+(プラス)」は、
ご好評をいただいている日曜午前のミニコンサート「サンデー・マティネ・コンサート(サンマチ)」の姉妹企画です。

“サンマチ・プラス”の愛称で呼ばれています。


サンマチ・プラスは日曜の夕方(ソワレ)に開催しており、
より本格的なミディサイズのコンサートや音楽劇をお届けしています。

公演時間は短すぎず長すぎない70~90分程度、予約制で、入場料はワンコイン(500円)です。


先に当ブログでご紹介した『瀧廉太郎物語』もサンマチ・プラスで上演し、皆さまのご高評を得て育まれていった舞台。

前回のサンマチ・プラス Vol.7 (2014年11月30日)では、パリ管弦楽団の首席フルート奏者、ヴァンサン・リュカ氏をお招きし、
超人的ともいえるフルート演奏をたっぷりお楽しみいただきました。


2015年最初の開催となるサンマチ・プラス Vol.8 (1月18日)は、
ストラヴィンスキー作曲の音楽劇『兵士の物語 (L’Histoire du Soldat)』が取り上げられました。

わが国でも熱烈な愛好者の多い『兵士の物語』の全曲版を、
第一線で活躍するソリストと俳優による演奏と朗読でお届けするという心躍る企画です。

おかげさまで予約は完売し、場内超満員となる盛況ぶりでした。

7名の演奏家の素晴らしいアンサンブル、朗読の域を超えたパワフルな演技、
清新な日本語による分かりやすい翻訳台本…。

すべてがお洒落でスタイリッシュ。お客様の拍手が鳴りやまない、実に熱く素敵なステージとなりました。





■一流の芸術家が取り組むユニークな音楽劇

芸術家の逆境が「傑作」をもたらすことがしばしばあります。
『兵士の物語』(1918年)もその例に数えられる作品です。

ストラヴィンスキー(1882-1971)は、ロシアが生んだ天才的な作曲家。
20世紀初頭、『火の鳥』『ペトリューシュカ』『春の祭典』など革新的なバレエ音楽を作曲し、
ディアギレフ率いるロシア・バレエ団による上演は当時一大センセーションを巻き起こしました。

しかし、1914年に第一次世界大戦が勃発すると、バレエ公演は激減。
続くロシア革命によって財産も没収され困窮したストラヴィンスキーは、避難したスイスで小編成の作品に取り組みます。

「脱走兵と悪魔」というロシアの民話に想を得て、脚本を親交のあった作家ラミューズが担当。
こうして『兵士の物語』が1918年に発表・初演されます。

「語られ、演じられ、踊られる二部からなる物語」との副題をもつ、このユニークな音楽劇。
発表以来、当代一流の演奏家や俳優がその上演に挑戦し、舞台芸術の新しい地平を拓いてきました。

器楽構成はヴァイオリン、コントラバス、クラリネット、ファゴット、トランペット、トロンボーン、パーカッションにそれぞれ1名ずつの7人編成。
それに、語り手、兵士役、悪魔役、セリフはないが王女も登場します。

1960年代に詩人ジャン・コクトーが語り手をつとめ、“名探偵ポワロ”のピーター・ユスティノフが兵士を演じて収録された音源が出され、ラミューズ版とは違ったコクトー版として広まっています。

コクトーの名調子での「語り」もフランス語のため、日本語での上演に接したいとの思いを持たれていた方も多いことでしょう。
ここにきて、日本でも各地のホールで『兵士の物語』の公演が相次いでいます。
せんがわ劇場でも独自に日本語での上演に取り組むこととなりました。


■『兵士の物語』全曲版の日本語による上演

本公演は、ストラヴィンスキー作曲『兵士の物語』全曲版を、オリジナルのラミューズ脚本をもとに日本語で上演するものです。

訳者は、前回のサンマチ・プラスでヴァンサン・リュカ氏の伴奏をつとめてくださった、ピアニストの東井美佳(あずまいみか)さん。
フランス語で書かれた脚本を、そのままの形で日本語に移し替えられました。

演奏者は、ヴァイオリンの井上静香さんを筆頭に、全国各地で活動する7名のソリストの皆さん。

朗読担当の高橋和久さんは、TV・映画・舞台・CMナレーションなどで活躍するほか、
東日本大震災直後の日本を描く劇や仲間たちと組んだ演劇公演(「トゥルースシェル・プロデュース」)では演出も担当する多才な俳優です。


演奏者が登場して席につき、朗読者が舞台上手にスタンバイします。
朗読者の傍らには物語の重要なアイテムとなる“古びたヴァイオリン”がセットされています。

まず高橋さんが、ロシア民話「脱走兵と悪魔」を本作のあらすじとして語ります。

「ストラヴィンスキー作曲『兵士の物語』!」。高橋さんの声が高らかに響き、いよいよ開幕です。


■『兵士の物語』第1部

<兵士の行進曲>

久々の休暇をもらった兵士のジョセフ、
軽快なマーチ風の音楽に乗り、テクテク、テクテク、故郷を目指して歩いています。

<小川のほとりの小曲>

小川のほとりでしばし休憩。肩に背負った袋からヴァイオリンを取り出し弾き始める。

ヴァイオリンを中心としたマーチ風の演奏が続きます。

すると、老人に化けた悪魔があらわれます。「そのヴァイオリンをくださらんかねぇ…」。
断わる兵士に不思議な「本」との交換をもちかけます。「この本を読めば大儲けができるぞ…」。
まんまと丸め込み、悪魔は本とヴァイオリンを交換させます。

ヴァイオリンの弾き方を教えてもらいたいという悪魔。ジョセフは3日間だけの約束で悪魔の屋敷に行き、絢爛豪華な時を過ごします。

<兵士の行進曲>

3日間の寄り道から旅路に戻ったジョセフ。ふたたび<兵士の行進曲>が軽快に奏でられます。

ようやく故郷にたどり着くが、そこで待っていたのは彼を幽霊扱いする村人たち。
悪魔の言った「3日」が、実は「3年」であったことを悟り、ジョセフは絶望に襲われます。

<パストラーレ>

クラリネットが活躍する牧歌的なシークエンスが続きます。

ジョセフは羊飼いの格好をした悪魔に気づき、悪態をつきます。
「あの本があるじゃないか」と悪魔。「本」には2、3日先の株式や為替の相場が記されています。
ジョセフは商人になり、大儲けをします。

本を開けば、欲しいと思うものは何でも手に入る。いくらでも大金が転がり込む。
でも、ジョセフは心が空っぽなことに気づきます。
「すべては無だ。ああ、古き良きものたち、嘘偽りのないもの、大事なものがなくなってしまった」。
ジョセフはただの兵士であった頃の生活を懐かしむのでした。

<小川のほとりのアリア>

ジョセフは昔に戻る秘密を求めて本のページをめくります。
そこへ、老婆に化けた悪魔が現れ、昔手放した古びたヴァイオリンを差し出します。

彼は悪魔の言い値で買い取りますが、ヴァイオリンは昔のようには鳴ってくれません。
もうヴァイオリンを弾くこともできなくなったジョセフは、またも絶望のどん底に突き落とされるのです。



■『兵士の物語』第2部

<兵士の行進曲>

また当てもない旅に出たジョセフは、とある村の酒場でこんな話を耳にします。

「国王の娘が原因不明の病気で夜も眠らず、何も食べず、口もきかない。
そこで王様がおフレをだした。娘の病気を治した者に娘を娶らせよう、と」。

これはいいチャンス。ジョセフは自分を医者であると騙(かた)り、お城へと向かいます。

<王の行進曲>

さっと照明が明るくなり、王宮の控えの間。
金管楽器、特にトランペット(コルネット)が活躍する<王の行進曲>が奏でられます。
王様に謁見し、医者と信じこませたジョセフは王女との面会を許されます。

トランプで運試しをするジョセフの前に、あのヴァイオリンを持った悪魔が現れます。
「へへへ、王女を治せるのはこの俺様だけさ」と悪魔。
ここで語り手が劇に介入して、ジョセフに知恵を授けます。
「あの本で手に入れた金をそっくり悪魔に返してしまうんだ。そしたら奴に勝てる」と。

語り手の言う通り、ジョセフは賭けトランプにわざと負け、勝ち続けた悪魔は酒をあおり倒れます。
ジョセフは、ヴァイオリンを取り戻し、弾き始めます。

<小さな音楽会>

トランペット、クラリネット、ヴァイオリンを中心とした変拍子の行進曲が奏でられます。

<3つの舞曲>

ジョセフの弾くヴァイオリンで王女は元気を取り戻し、やがて踊り始めます。

タンゴ、ワルツ、続いてラグタイム。「王女の踊り」は本作の佳境ともいえるシーンです。
井上静香さんの素晴らしいヴァイオリン・ソロが時に悩ましく、時に軽快に、艶やかな響きで聴衆を魅了します。

<悪魔の踊り>

ヴァイオリンが刻む激しい音で、悪魔が激しく踊り狂います。
しかし、ジョセフの弾くヴァイオリンにより遂に悪魔は退治され、兵士と王女は喜びの抱擁をかわします。

<小コラール>

4本の管楽器と2本の弦楽器によるコラール(賛美歌)が奏でられます。

<悪魔のクープレ>

2拍子の弦楽器演奏に乗ってまたも悪魔があらわれ、二人に呪いをかけます。
「国境を越えるんじゃないぞ。国境を越えたら、地獄へ引きずり下ろしてやる」と。

<大コラール>

コラールの響く中、“教訓めいた台詞”が語られます。

~かつて持っていたものに、いま持っているものを足そうとしてはいけません。
かつての自分と今の自分、両方になることはできないのです。

~ひとつの幸福、それがすべて。
 ふたつの幸せなんて、それは無いも同然。

ある日、王女はジョセフに言いました。
「私、あなたのこと、何も知らないわ。あなたのふるさとへ行ってみたいわ」。

ジョセフは故郷での幸せな暮らしを夢見て、王女と城を抜け出します。
国境の道しるべにたどり着き、先に国境を越えたジョセフは彼女を呼び、振り返ります。

<悪魔の凱旋の音楽>

国境にいたのは悪魔。王女は消え去り、呪いの言葉通りジョセフは地獄へ連れ去られます。
悪魔に奪い取られたヴァイオリンが不気味な不協和音を響かせ、打楽器が激しく打ち鳴らされます……。


-----突然訪れたエンディングに場内は息を飲み、一瞬の静寂に包まれます。
やがて大きな拍手が沸き起こり、鳴り止みません。出演者の皆さんが3度のカーテンコールに応えます。

「ふたつの幸せ」を得ようとしてすべてを失う『兵士の物語』、その不思議な世界に魅せられ、
文字通りの「大熱演」に高い満足感が得られました。あの“教訓めいた台詞”も頭から離れません。


■「シンプル・イズ・ベスト」の素敵なステージ

最少の出演者で、最大限の効果。
今回の舞台は、見終わった後、誰もが完成度の高さに打たれたのではないでしょうか。

指揮者がいないゆえに、演奏者と俳優は自律的に見事な一体感を醸します。
変拍子を多用した技巧的に難しいパートでも一糸乱れぬアンサンブルを聴かせ、全員が物語世界を構築していく緊迫感が舞台にあふれていました。

まさに「シンプル・イズ・ベスト」の素晴らしいステージです。

熱意あふれる演奏でアンサンブルを率いたヴァイオリンの井上静香さん。
そして、各パートを担当されたソリストの皆さんの高い演奏技術。
一人で何役もの役作りに取り組み、熱い演技を見せた俳優の高橋さん。

優れたピアニストである東井美佳さんを翻訳者に迎えたことも見逃せません。演奏にマッチする「生きた日本語」が選ばれ、実にスムーズな「音楽と演劇のコラボレーション」が達成されたのです。

『せんがわ劇場版 兵士の物語』は誕生したばかり。温かい拍手を送ってくださったお客様とともに、
この素敵な音楽劇をもっともっと成長させ、進化させたいものです。
出演者・スタッフの皆さんに感謝しつつ、ぜひとも他日の再演を期待したいと思います。



(取材・文/ライター 才目)


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