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2019年09月12日

第10回せんがわ劇場演劇コンクール講評 ~ルサンチカ『PIPE DREAM』~

※掲載の文章は、第10回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際の講評を採録・再構成したものです。

我妻:
非常に楽しかったです。扱っているテーマが「死」ということでどういうことになるんだろうと思ったんですけど舞台上はすごく軽やかな浮遊感もあり、と思えば、すごく重力を感じる空間もあり、というところの浮く感じと実際の重力を感じるその使い方がおもしろいなと思いました。どういう風に死にたいか、ということを語る形で進んでいくのですが、自分の頭で考えるのと違って他人に語る時、人はこういう風に死にたいと語る時点でフィクションが必ず生まれてくる。リアリティからかけ離れた希望、夢が生まれてくる。「死」を語りながらも、ふわふわしたありえない夢を語ってしまう。しかし「死」というものは私達の足元に確実に流れている。舞台の下に沈んでいくという最後の演出も不可避の「死」を象徴していて非常におもしろかった。あと、「あ、こういう風に死にたい」ということを語ることによって、今の自分の在り方を考える。そういう時間の使い方っておもしろいなと思いました。ちょっとまとめきれないのですが、よかったです。

乗越:
僕もこの作品はすごい好きでした。まず幕が開いた時から、観客は一体なにがはじまるんだろうとグッと引き込まれて、ずっと見てしまう。それが次から次へ、ことごとく観客の予想を裏切る形で進んでいき、興味を惹き続ける演出というのがまず大したものだと思いました。そこで語られるのが「死」とか、ましてや「理想の死」という、それ自体本来キッチュな話題ではあります。しかし同時にそれらは現代社会では隠されている。現代社会において、死は常に隠されるようになっている。ほとんどの人は病院で亡くなり、家で看取るようなことがない。家畜は知らぬ間に食材となり、動物の死体も速やかに片付けられる。
そういう「死」を排除した現代社会において、死については、改めて問われなければ語られないだろう。そこへさらに「理想の」という別のフックをつけることで、個人の特徴ある死生観を引き出し、リアリティを持たせていたのが戦略として優れていた思います。
また冒頭の照明が呼吸をするように明るくなったり暗くなったりして、しゃべっている空間がどんどん変わっていく。空間自体の質を変える照明が素晴らしかったと思います。
吊られていが女性もはじめは受け身で吊られたままだったのが、途中から自分から起き上がってコントロールするようになっていく。そこに脚立が来て降りてくる、というように、どんどん能動的な形のコミュニケーションが展開していくのも素晴らしかったと思います。「理想の死」を考えることは、「死」という究極の受動に対して能動的に関わろうとするひとつの形ですから。
またリノを剥がし、床板まで剥がしていくのも、現代社会で隠されている「死」の表層を剥いでいくようでした。しかもそのまま床下に潜っていったあとも、床下から舌打ちが鳴り続いている。舌打ち自体は冒頭で女性が引きずられて来た時からあり、それが最後まで続いていく。いかに理想的な死を語ろうと、ほとんどの人はそれとは無関係に死んでいくわけですが、それで全て終わるわけではない
。死を受けれるだけで終わってたまるか、という能動の極みにも思える。などなど、見た人の思考を様々に広げる力がありますね。本当に感心した舞台でした。

杉山:
僕はちょっと分からなかったんです。すごく分からなくて、(審査員の方に色々聞いたりしたんですが)吊っていることと、死、つられているものは落下する、重力に逆らえないというのもあるんですけど、どちらかというと仕組みが気になっちゃいました。フライングってよく舞台でやるわけで一番難しいのはコントロールできないということ。吊られている人は、それをうまく脚でひっかけることによって、方向性をキープして、あと動滑車を使っているから、荷重が二分の一になっていてる安定している。だから落下するには「安定しているな」と機能の方に目がいっちゃったいうのは裏方だからだと思うんですけど、そこがちょっと。僕だからだなとは思うんですけど。あとリノをめくるとか、テープを剥がすって、すごくあざといと思って、でもそのことはすごく挑戦しがいのあることだし、どんどんやって欲しいんです。逆に劇場をぶっ壊すぐらいのことまでいってもいいと僕は思うんですけど、そういう面では演出がものすごい考えていて、アグレッシブで挑発的であるということは感じました。感じたんだけれども一方ですごくそのコントロールされている世界だなというのがあり、もうひとつ気になったのが今までコンクールで見てた作品が閉じているとか、私的であるという、すごくモノローグっぽい台詞が多くなって来ている。その時にこの台詞を聞いた時に「モノローグなのになんでモノローグに感じないのかな」って、思ったんですよ。そしたら「これはインタビューなのか」と、インタビューだと聞く相手がいるから、語り出したら多分それが観客、だからモノローグなのにこれはなんか違う言語なんだなと思った瞬間に逆に僕は、テキストがそのモノローグの色んなものをコラージュしているだけなのかなと思ったり。「死」について色々語られるんだけど、例えば「庭で11時の日に死にたい」と言った人はどこの誰なのか、(パンフレットにも書いてあったけど)「いろんな職業、いろんな人に聞きました」とは、「誰に聞いた?」「植木屋さんなのかな」とか「性別は男なのか?女なのか?」「年齢いくつなのか?」そういうことがすごく気になっちゃいました。インタビューであるということとドキュメンタリーなのか、すごく捏造されたフィクションなのかということの「悩み」みたいなことを僕は抱えながら見てしまいました。全体的に、演劇とはなんなのかをものすごく考えさせられるラディカルな作り方をしているので、頑張って欲しいというか、突き進んで欲しい。たぶん、ぶっ壊して新しい世界作ってくれるんじゃないかなと思いました。この人たちの…。

加藤:
すごい美しい作品だなという風に思いました。私は技術に詳しくないので、彼女が吊り下げられて「理想の死」について語っている間、もしこのまま不慮の事故が起きて、彼女が落ちて死んでしまったらどうしようっていう謎の共犯関係を劇場中に置かれたような気がして、その緊張感の中で見るというのはすごくおもしろかったです。私すごくひねくれた性格なので、インタビューって書いてあるけれど、インタビュー映像があるわけでもないし、音声があるわけでもなくて、どこまでがインタビューなんだろう。ということを考えながらちょっと見ていました。なので、そのあたりは一体なにが真実なのかちょっとお伺いしたいなという風に思っています。あとはこういうコンクールでいわゆるショーケース形式で複数の団体が一度に上演して仕込みの時間もバラシの時間も短いという中でとにかく劇場の機構を使い切ってやろうという心意気というのは素晴らしかったなと思います。

市原:
私も、宙に吊られていて、吊られている人が自分でそれを操っていた時に、あ、すごく大丈夫なものなんだこれは、って思ったんです。で、吊られていることのおもしろさが自分の中で減ってしまって。でもそれはつまらないことかもしれません。やられている事に対しても審査員それぞれ色んな解釈があってそれを聞くことはおもしろかったんですけど、私は正直そこまで深読みできなかったという感じがしたし、動きと言葉がどのくらい関わってるのかとかも私が分からなかったというのがありました。色んなものを剥いでいったり、開いたりして、それは驚くべきことなのに私は驚けないのはどうしてかなと思いました。その最後に舞台監督さん風の俳優が出て来て片付けていくのも、作品的にはひとつ事件だと思うんですけど、どうして事件になっていないんだろうと自分の中で思いました。そのひとつのアイデアとして照明は最初素敵だと思ったんですけど、そこからあまり裏切りがないというか、もっと変化がもしかしたらあってもよかったのかなと。起きていることの面白さが届いているかというと私は分からなかったという感じがありました。

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徳永:
死と眠りをシームレスに繋げるという狙いがあったのかなと感じました。最初に女性が寝言をしゃべっているような状態で登場して、男性がラピッドアイムーブメントの説明をする。そのオープニングで、これからはじまるのは夢についての物語であろう、と受け取ったわけですが、以降の情報の出し方があまり上手くいかなくて、観客が長い待ちの状態になってしまった。企画書に、事前に「理想の死」にまつわるインタビューをして、それを採り入れたとあったので、それを読んだ人はなんとなく理解できたでしょうが、前情報がないお客さんには、受け止めるまでに時間がかかってしまったんじゃないでしょうか。ただ、私はすごく好きな作品で、近藤さんもよかったと思うんですけど、地道さんもよかったです。さまざまな段取りをこなしつつ、インタビューで語られた「理想の死」について粛々と話す近藤さんとは対象的な、幻視された死を差し込むみたいな役割を請け負いつつ、お客さんに向けて開いていたような気がするんです。その点はすごくよかったです。

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