受賞者インタビュー(4)  キュイ 綾門優季さん(劇作家賞)

せんがわ劇場

2019年09月21日 10:13

・今後のキュイとしての活動予定や今後の展望、綾門さんご自身の執筆予定についてお聞かせください。
不吉な話で申し訳ないけど、テロに巻き込まれずに死にたいですね。老衰とかがいい…。

ただ展望としては遠すぎるので、もう少し近い話をしましょう。

いま一番近いのは、こまばアゴラ劇場で『景観の邪魔』という作品の再演をします。
(2019年11月21日-12月1日 こまばアゴラ劇場)
このあいだ急な坂スタジオで、そのためのワークインプログレスをしていまして、元々短編だったものを長編に書きかえるので、いま新しいシーンを書いている最中なんです。

この『景観の邪魔』という作品は2017年に初演したものなんですけど、逃れようのない天災、震災をテーマとしています。
東京に大震災が起きたときに、東京がどうなるかという未来を仮想して描いた作品です。

シーンを追加している中で、どんどん不吉なシーンを書き足したくなる衝動と戦っていますね。「204X年とか日本、本当にヤバいだろうな…」みたいな。
みんなが「あはは」「うふふ」なんて暮らしている日本の未来なんて全然書けなくて。
「そんなことあり得るか?」という。

『景観の邪魔』以降は、いくつか企画段階のものがあったりします。

ただ展望については、それこそ京アニのことについてもそうですけど、いま僕は混乱しながらインタビューを受けているんです。それはあまりに時間が経ってなさすぎるからです。
これは僕に限らず誰もがそうだと思います。
だから、テロを今後どう扱っていきたいか、なんて展望は、語れない、まだ。
それこそ誰もがポカーンとしてる。あまりのことに、事実を受け止めきれていないというか。
それを腑に落とすためには、おそらく年単位の時間が必要なんだと思います。
『蹂躙を蹂躙』を書いているとき、座間の事件ですら、ちょっと近いなと感じたくらいなんです。

なのでこれが数年、十数年、もしかしたらもっと時間が掛かるかもしれませんが、いま感じている悲しみみたいなものをそのまま流されてしまわずに、何か新作の戯曲に昇華できればいいなと思います。

相模原の事件のことをすでに5人に1人が忘れているという衝撃的なニュースが飛び込んできたのですが、情報の海に流されないで生きていきたいです。オウムも忘れないし、秋葉原の事件も忘れない。一生忘れない。

あと、そうだ、『非公式な恋人』という作品の上演が近いです。仙台で上演します。

元々僕が青年団リンク キュイ『TTTTT』という公演で、ワワフラミンゴの鳥山フキさんに演出してもらうために書き下ろした『非公式な恋人』という短編戯曲があるんですけど、それをなぜか劇団 短距離男道ミサイル※が上演することになりました。
(※仙台の若手男性俳優による劇団 https://srmissile.com/about

女性4人と男1人の5人芝居なんですけど、「短距離男道ミサイルに女性4人もいたか?」という、どういうことなんだ、と思っている企画です。

再演許可のメールが届いたときに二度見しましたからね。意味が分からないなと思って。どうする気なんだろう、女装祭りなんだろうか…。
女性4人と男性1人の芝居だからなあ。男性4人と女性1人じゃないんです。だからどうやってあのメンツでやるのか、という。設定的に男性に置き換えてやることも出来ないんですよね、ジェンダーについて扱っていて、性別が非常に重要。
あと「半裸になるタイミングはないぞ」と(笑)。作風的に大丈夫なんだろうか。
作者の僕もよくわからないものが、10月に予定されています。アフタートークに呼ばれているので、必ず観ます。

東北にいらっしゃる方にはぜひ観て頂きたいですが、それがキュイだと思ってほしくない、ということも同時にお伝えしておきたいですね(笑)。

『非公式な恋人』は、まさかの総理大臣が暴走して独裁政権になる国家を扱った短編なんですけど、いやはや身に迫りますね。
その主人公は特に悪い事はしていないんですけど、言論弾圧が激しく、わけがわからないまま精神病棟にぶち込まれます。
初演の時はファンタジーとして書いたけど、今はどうだろう。ファンタジーとして観られるかしら、と。


・今後綾門さんがせんがわ劇場で特にチャレンジしてみたいことはなんでしょうか?
今回のコンクールの応募書類にも書いたんですが、市街劇に興味があります。

ただ、問題があるとすると、外でキュイの作品を上演していたら本物のテロだと思われるのではないかということです。ちょっとそこは大きな問題になりかねないので、作品を選んで対応したいと思います。
『蹂躙を蹂躙』のセリフを外で喋るのはヤバすぎるので、そこは一考の余地があるかと。

過去に「劇団しようよ」さんが外で演劇を上演※していたことがあったと思うのですが、もしそういう機会があればぜひやりたいという気持ちがあります。
(※ 劇団しようよ 第6回せんがわ劇場演劇コンクール オーディエンス賞受賞記念公演 『翼をください、マジで』京王線仙川駅前公演)

また今回のコンクールで『蹂躙を蹂躙』を初めて観たという調布市民の方に深い誤解を与えているかと思うのですが、僕はこれでもワークショップ講師をやったり、高校演劇の審査員や、大学演劇の審査員をしたりなど、ちゃんと教育方面の仕事もできるよ、してきたよ、ということをお伝えしたいです。

作品だけだと「ちょっと調布市の施設には入れられないかな」と思う方もいらっしゃるかもしれないのですが「それはそれ、これはこれ」ですよ、ということはアピールしたいです。いつでも「世界に殺される!」とか言っているわけではない、ということはぜひここで強く言っておきたいところです。

そうした事業もきちんとやることができると思います。作品のイメージで最初から除外しないでくださいということですね。
作品からだととてもそうは思えないかもしれないけど、子供に近づけても大丈夫です。
公社流体力学もその言い訳はしておいた方がいいのかなと思いますけれど(笑)、要らない心配ですかね。

作風は作風、人は人ですよ。ということですね。


・これは稽古場インタビューを担当されたうえもとさんからの質問ですが、どんな音楽を聴いて執筆されていたんですか?
きゃりーぱみゅぱみゅです。
出演者ドン引きでしたけども。

基本的に僕が戯曲を書くときに爆音で聞いているのは、きゃりーぱみゅぱみゅか、YUKIかcapsuleなんですけど。

「何がどうなってそうなってしまうの?」って言われたりするんですけど(笑)。インプットとアウトプットがかみ合っていないんです。

YUKIだったら「ランデヴー」「ふがいないや」とかが好きです。

capsuleは「jelly」「グライダー」が好きですね。

「本当ですか?」っていう。これが冗談じゃなくて、本当にこれを聴きながらあの作品を書いているというのが真に怖いところで…。 


・ありがとうございます。最後に、何か一言ありますか?
『蹂躙を蹂躙』の前に『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』という作品があって、それも無差別テロを扱った作品なんです。90分の作品で90人ぐらい死ぬので、大体1分にひとり死んでいく計算になります。

昨年(2018年)の9月6日、僕の誕生日に北海道で大地震がありまして。

その時に『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』の上演台本が手元にあったのでそれをnoteで500円で販売して、その売り上げを北海道地震の復興支援として募金していました。募金受付が終了してからは通常販売へと切り替えていたんですが。

今日(2019年7月24日)から正式に京アニが募金の受付を開始したので、もし微力でも僕にできることがあればということで、今度は売り上げの全額を、そちらへの募金にあてようと思います。募金も出来るし、戯曲も読めるという。

微力でも、テロの被害に遭われた方に協力がしたいという方がもしいらっしゃいましたら、ぜひご覧になってください。

『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』
https://note.mu/ayatoyuuki/n/nbd514fcbeab2
綾門優季 note
https://note.mu/ayatoyuuki

『前世でも来世でも君は僕のことが嫌』の執筆中に僕が一番調べていたのは相模原で起きた障害者の殺傷事件でした。何の罪もない人や、幸せな生活というものが、一日で消え去ってしまうテロというものについて考える機会になればいいなと思って書いた作品です。

もちろん僕も一定額を募金するつもりでいます。前回もそのようにしました。

テロを扱っているからといって、テロを推進したいわけではもちろんなくて、防止したいんですね。当たり前ですが。
僕は考え続けることがテロの防止に繋がっていくんだと思っています。
人への想像力を決して失わないこと。
想像力を失った人が知らない人を追い詰めて、追い詰められすぎた人が凶行に走るという構造があると思うんです。
それについて考えること、想像することを絶やさずに続けられるように、微力でも今後演劇を通して、何かできればと思っています。




【キュイ プロフィール】
専属の俳優を持たない、プロデュース・ユニットとして活動中。戯曲は「震災、テロ、無差別殺人など、突発的な天災・人災を主なモチーフとすること」が特徴。『止まらない子供たちが轢かれてゆく』『不眠普及』でせんだい短編戯曲賞大賞を受賞。

関連記事