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2017年10月05日

第8回せんがわ劇場演劇コンクール 専門審査員・アドバイザー講評(6)「くちびるの会」


写真撮影:青二才晃(せんがわ劇場市民サポーター)

※掲載の文章は、第8回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際、専門審査員およびアドバイザーから各劇団にむけて語られた講評を採録・再構成したものです。
劇団によって順番が違っていますが、当日の状況を再現しています。どうぞご了承ください。


■矢作勝義

オーディエンス賞を取ったということは、非常に物語がしっかり書かれていたところが評価されたのだと思います。
そこは良いのですが、例えば電話の着信音とかの音の使い方や、降らし物について。これが大きな舞台公演なら、一瞬のうちに片付けてくれるスタッフが出てくれるかもしれないけど、そうでないので、降らしたものを片づけることはできない。それならば、どこのタイミングで、何故、何を、どのような形で降らせばいいのか、などをもう少し考えられたら良かったのではないか。それは舞台上に残っているものをどのように処理するのかも含めて考えないと、もうワンランク上のレベルには進めないのではないかと思います。
それから、30〜40分の枠というのは、演劇にとっては不利なものだと思います。普段90分とか2時間で作品を書いている人が、30〜40分に縮めなければいけない場合にどうするか。普段の筆の使い方では書けないので、そこを戦略的に書くということが、コンクールという場においては必要なのではないかと思いました。


■矢内原美邦

とても正統派の演劇で、構成や演出、時間のあり方、命を失ってしまった後に続く人たちのことを描いていて、とても見やすかったですし、良かったと思います。ただ一つ、よく見るタイプ、というのが私にとってはちょっと問題でした。
役者は、唯一ここのチームは(台詞を)噛まなかったですね。他の5団体は全部噛んだんですけど。私は噛むことにすごく執着していて、噛むぐらいなら死ねばいいと思うんです。私の場合はもっと早口で言わせますので、もっと活舌よく早く言わせるとどうなるんだろうと想像しました。すごくレベルの高い役者さんたちだなと思います。演出家もそれをよく見て演出しているなと感じました。
繰り返しになりますけれども、よく見るタイプというところから一歩出るために、何をしていくか、という課題が残っていると思いますので、それを今後課題にしてやっていってもらえばいいと思います。


■高橋宏幸

皆さんがおっしゃったように、演劇というものの力を信じて、それに向かってちゃんと真摯な態度で臨むという、非常に好感のもてる作品、作風だなと思いました。ぜひ今後もこの道を邁進していただけたらと思います。
ただ、この作品の物語には、多分40分という枠はつらいんじゃないかなと思います。もうちょっと細部を突き詰めて、2時間くらいのドラマとして完遂させる作品ですよね。もちろんこのコンクールではしかたないんですが、ところどころ話がすんなり進むとか、もっと話したほうがいいとか、物語をもっと足した方が良かったんじゃないかな、ということは思ってしまいました。でも今後、例えばこれを2時間版として創りなおすとか、いろんなやりかたがあるんじゃないかと思いました。


■スズキ拓朗

僕は、この作品で唯一泣いちゃったというか、感動しました。ストーリーが伝わってくる脚本だったんです。もちろんそれぞれの団体は全部、面白いところがありました。でも演劇において、感動するかどうかってすごく重要なことだと思うんです。『それについては僕は反対だ』とか『そうだよね』と思うことも大事ですが、僕はやはり一番は感動することだと思うんです。そこをやってくれた脚本、俳優さん、すごくバランスのとれた良い劇団というか、良い作品でした。ほんとに泣き…まあそれはいいんですけど。
子ども(役)の表現というのは、僕は最初はわからなかったです。もっと早めにヒントを与えてくれないと、どういうキャラクター演技なんだろうと思って、役者さんが下手に見えてしまうんですよね。
また、(必要以上に)仕込まなくていい方法があるといいなと思います。水槽はすごく良かった。絶対に重要なものであるプールを、よくあれで表現してくれた、なるほど、となりました。が、あのお立ち台やマイクは要るのかなと少し思いました。もちろん重要なシーンではあるんですが、1回しか使わない。それから舞台上の線もけっこう踏んでいましたね。それはそれで良い手法だと思いますが、空間を区切るのであれば、もっと気にしてもいい。そういうところをもう少し丁寧にやっていくと、この空間にあった表現につながるんじゃないかな。
でも、この団体はすごく確立されているので、邁進していった方がいいというのは大賛成で、そんなにすぐに変えなくていいと思います。ちょっとずつ、ああじゃないかこうじゃないかと変えていって、自分たちの正しいことをやり続けてくれれば、演劇のいろんな形が残る可能性の一つだと思います。ぜひこのまま頑張りつつ、下がらないように、どんどん上がっていくよう頑張ってほしいと思います。


■篠原久美子

この脚本は、一人の人間が亡くなったということをめぐって、その死の身近にいたさまざまな人たちの思いが、繊細に丁寧に思いを込めて描かれていて、とても共感できる、好感のもてる舞台になっていたと思います。だからこそオーディエンス賞をいただいたということで、スズキさんもおっしゃっていましたが、人の心に直接響くことが書けるというのは、とても大きな力だと思います。これからもぜひ、この道を行っていただきたいですし、この道を信じていいと私は思います。とてもすばらしい団体さんで、すばらしい脚本だと思います。
そのうえで、技術的な脚本のブラッシュアップポイントが2点あります。
1点は、時の遡り方がうまく観客に伝わらないこと。本当は、作品の質から言っても、時を遡らずにこの戯曲を書ける技術力があることが最も望ましい(永井愛さんやマキノノゾミさんのように)のですが。とはいえ、「ひとつ」のきっかけから、昔のことを思い出して「ひとつ」遡っていく、というアイディア自体は決して悪くはありません。ただ、それが明確な法則性なく何度も使われると、観客が、舞台上の時間軸についてこられなくなります。もう少し、観客に分かるような技術的な書き方、あるいは演出の仕方などがあると思いますので、ぜひ、工夫をされてみてください。
もう1点は、これは完全に脚本の問題です。こういう、死や事件を描く場合、その事件自体が、物語の進行上、大事な情報になります。その大事な情報を、「いつどういう方法で観客全員にわからせるか」ということが、一番大切なのですが、この作品は、わからせるのが遅すぎます。
劇作家の、特に初心者は、大事な情報を隠したがる傾向があります。大事な情報だから、もっと後で、バン!ってわかった方がいいとか、少しずつわかった方がいいとか、もったいをつけたために最良の時期を逃してしまいがちなのです。最初に田中くんがお母さんに「なほちゃん覚えてる?」と聞いた時、「あの通学団一緒だった子でしょ」と答えますね。でも普通なら、「あのプールで亡くなった子」というのが自然な反応じゃないでしょうか。これは、作家がわざと隠してしまったのだと思います。もしもあの時点で観客に、「これはプールで亡くなった子の物語だ」ということが伝わっていれば、その後出てくる石黒先生の「変なこと言わないでくださいね」という言葉も、観客には、『水難事故のことを言うなってことだな』と理解でき、前半部分に起こるひとつひとつの台詞や行動が、がもっと深く観客の心に入って来るんですね。
この作品に感動した人たちは、後半以降、何が起こったか分かってからだったと思います。そのために、実は前半でもっと、「この気持ちはわかる」ということを積み上げていくことが大切です。その観客の共感を丁寧に積み上げるために、どの情報をどこで出すかということは、もっと考えられると良いと思います。
とても素敵な作品でした。ありがとうございます。


■徳永京子

審査員の皆さんがたくさん褒めてくださったので、ちょっと辛口なことを。
今回の出場団体を見ると、フィジカル系の表現をする団体が増えています。ここだけの話ではなく、世界的な傾向として、演劇全体にダンスの要素が入ってきています。その中で台詞劇、ストレートプレイをやっていく時に、今までの日本の現代劇の台詞劇がやってきたやり方を丁寧に辿っていっては、伝えたいことを伝えるのに、ものすごく遠回りになってしまうかもしれない。つまり、みんな昔ほど言葉が信じられないので。
くちびるの会さんについてはっきり言ってしまうと、作家の都合のいいところで登場人物が急に饒舌になったり、急に詩的なことを言い出すように見えるんですね。それは説得力がないし、観客を泣かせようとしているように思えてしまうんです。ひろくんが「思い出したんです」と言ってなほちゃんのお母さんに話す台詞や、なほちゃんのお母さんが、自分の娘の死について非常に詩的な台詞を言いますね。あのあたりはすごく不自然です。
名もない子どもの水死だけれども、どこの誰にでも起こりうる問題ですよね。この社会で頻繁に起こっていて、誰もが加害者に被害者になるかもしれませんよね、という作品を創るとしたら、そういう市井の人がそんなに詩的なことを、独り言でも言うだろうか。
私はこういう、登場人物が急に詩的なことや知的なことを言い出してストーリーを進めることを、作家のアリバイ作りと言っているんですが、それは観客に伝わらない方がいいので、たとえ感動させよう、客を泣かせて帰らせるんだぜ、と思っていても、そこはバレないように、短い台詞で、引き算でやってもらえたら良いと思います。
作品において都合のいい、感情の流れを端折ったり、感動を盛れる言葉は、作家自らがチェックして排除していかないと。個人的な意見ですが、そういう飾りを削る方向に行った方が、これからの台詞劇には、強みになるんじゃないかと思います。



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写真撮影:青二才晃(せんがわ劇場市民サポーター)

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