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2017年10月05日

第8回せんがわ劇場演劇コンクール 専門審査員・アドバイザー講評(3)「Pityman」


写真撮影:青二才晃(せんがわ劇場市民サポーター)

※掲載の文章は、第8回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際、専門審査員およびアドバイザーから各劇団にむけて語られた講評を採録・再構成したものです。
劇団によって順番が違っていますが、当日の状況を再現しています。どうぞご了承ください。


■篠原久美子

おつかれさまでした。脚本のことだけ申しあげます。
この作品は震災を描いた作品だと思うんですね。震災のようなことを描こうと思う時、劇作家がどういう風に立ち向かうかというと、きちんと取材をして自分も一緒に泣いて、ドキュメンタリードラマのように真摯に向き合って創るか、あるいは、ものすごく遠い話の中に、ひそやかにひそやかに、その痛みを埋めていくという作業をすると思いますが、この作品は、後者において非常に優れていたと思います。
何よりも、場所の選び方とタイトルがとてもいい。場所は、動物園の応接室という一か所。タイトルの「ぞうをみにくる」は、目的語と動詞の組合せで、あまりないタイトル、つまり非凡なタイトルなのですね。
この作品で象は、なにか大きなことがあって傷ついた人たちの象徴として出ていて、象の話しかしていないはずなのに、震災のPTSDが見えてきます。(登場人物の)女の子の話を聞いていると、はじめは、好きな人がいる街に自分が引っ越して来たらいいじゃないか、何てわがままを言っているんだと思う。でも彼女が「あたしはあの日一人だった」と言った瞬間、彼女も被災者だったとわかる。たぶん最初は避難所、それから仮設住宅にいて、今彼女がいるところも、もしかしたら3番目か4番目の住所かもしれない。これからまた動くのかもしれない。その傷が少しずつ少しずつ見えてくる、その切なさ。
あの象もリンゴも、単に動物園の象というより、震災で亡くなった方たち、救えなかった命、自分のせいで死んでしまったのかもしれないという命や後悔が、背後に見えてくる。そのことを、なんとひそやかに書かれるのだろうという台本でした。涙がこぼれました。こういう繊細なものをお書きになるということは、非常に優れた技術力と人間に対する優しさを持っていらっしゃるのだと思います。
この作品は40分という時間ですのでこれで良いと思いますが、今後こういう作品で一晩ものを書かれる場合、二人の会話劇では「綻び」が作りにくい、ということを意識されてみてください。二人というのは、会話よりは対話に向いているんです。二人の「会話」に噛み合わなさを出そうとしても、シンプルすぎて平行線になりやすく、飽きられる可能性があります。その時に、全く別の視点を持つ第三の人物がいると、AとBの会話、AとCの会話、BとCの会話という「噛み合わなさの組み合わせ」が、綻びをより複雑に面白くしてくれると思います。お疲れさまでした。ありがとう。今後も期待しています。


■スズキ拓朗

戯曲の持つ力、言葉の持つ力を、俳優の皆さんと稽古の中で日々、身体におこしていったんだなっていうのがすごく見えて、劇作家賞を取った理由がよくわかります。
ですが、こういった戯曲の場合、俳優の方は噛んではいけないと思うんです。緊張はあると思いますが、それだけはやはり練習をした方がいい。それから、ちょっと泣き過ぎかな、と僕は思いました。どこにピークを持っていくかというところで、ずーっと泣いているように見えました。
この劇団というか、山下さんに僕が期待することを言います。言葉が作る身体はよくできあがっていると思います。ただ、外を歩き回るとか、不安定な枠を超える瞬間とか、白いものが飛んだりする場面では、やはり「見せる身体」を持たないといけないんですよね。ひとつの表現を拡大することが、この団体が大きくなっていくチャンスの一つだと思いますので、身体で見せなければいけない部分を頑張っていただければと思いました。お疲れさまでした。


■高橋宏幸

篠原さんが言われたように、オーソドックスかもしれないけれど、戯曲の王道を突き詰めていく作品だと思いました。
意識しているか、していないかはわからなかったですが、象というモチーフは、別役実さんの「象」を想起させられました。その意味ではこれは、日本の近現代の演劇史の歴史の延長線上にきちんと置かれるということを考えた戯曲で、非常に好感が持てた作品でした。ただ同時に、まだ若いので、完成されていくというよりも、あえてもう少し荒削りな、物語を壊したことも、今のうちにやった方がいいような気がします。概して年齢や経験と共に技術は上がって、緻密な戯曲は書けるようになるでしょう。もちろん作家によって、年をとってもずっと荒削りな作品を追い求めるという人もいますし、上手くならない人もいるので、こういうことを言うと怒られてしまうかもしれないですけど。若いうちにしかできないような戯曲の書き方というのも実はあると僕は思います。いまの若い劇作家のひとたちは、みんな小さな物語というか、上手く戯曲は描いてる一群があると思う。僕としては、今のうちに色んなバリエーションも試した方がいいんじゃないかな、と思いました。


■矢内原美邦

あがっていた意見とほとんど同じなんですけれども、「基本、それはとても大切なこと」と自分のメモに書いてあります。やはり基本的なことがクリアされていたし、それは評価に値すると思いました。
早口でセリフを何度も繰り返したり、演出面においても色んな工夫がなされていましたし、地震のこと、二人のやりとりもとても面白く観られましたけれど、ただやはり、戯曲としての言葉はもっとチャレンジしてもらいたいと思いました。
多分これからできることだと思います。たくさんの日本語から言葉を選んでいく中で、言葉の一つ一つの選び方、聞いたことがない表現といったことができる技量を持った人だなと思ったので、そこにチャレンジしていけると、上からですみませんが、もっともっと面白い戯曲作家になるな、と感じました。


■矢作勝義

皆さん戯曲のことを非常にほめているということは、役者と演出に課題が残っていると理解していただき、役者のスキルをどうやってあげていくのか、その役者をどういう風に活かしていくのか、演出をしていくのかということを今後の課題にして頑張っていただきたいと思います。


■徳永京子

矢作さんのお話を受けまして、それを少し具体的に。
一番というと言い過ぎかもしれませんが、すごく大事な台詞で、女性の「思い出が相手じゃ勝ち目がないじゃない」という台詞がありましたよね。あれをひっくり返りながら言ってしまったことで、ほとんどのお客さんは聞き取れなかったと思います。それは、この作品にとってとても大きい損失だと思います。背景には震災のことがあるけれど、手前にあるのは男女のラブストーリーです。あの台詞は、二人の間に割って入っている象が、具体的な(本物の)象ではなかったということを伝える、大事な台詞でしたから。
それは役者さんの問題でもあるし、ちゃんと聞こえるように身体の動きを指示しなかった演出家の責任でもあると思います。
また、スズキさんがおっしゃった泣き過ぎ問題は私もすごく感じました。私は自分の中で、ひとつの作品の中で俳優が泣いていいのは一人だけ、それもワンシーンのみというのを指針にしてるんですけれど、というのは、それ以上泣いてしまうのは演出として効果的でないし、どこか俳優の自己陶酔が強まっていると感じるから。役に入り込んでいるようでいて、作品の内容をお客さんに届ける前に、舞台の上で作品が閉じてしまうんです、演じる人物に思い入れするのはいいとしても、感情におぼれるのは良くない。そこは踏ん張って泣かないで、ちゃんと作品を届けることについて冷静になってください。
震災の話だということはよく伝わってきました。不思議なんですけど、途中から私は、彼女が住んでいるのは神戸じゃないかと思ったんです。つまり、東日本大震災と阪神淡路大震災の問題がなんとなくこの作品の中でリンクしたような感覚を覚えたんです。それは、もしかしたら震災から6年という年月を、良い意味でも悪い意味でも、作家が具体的に考えてなかったからかもしれない。
良い意味でというのは、私みたいな誤読をして、世界観を広げる人があるかもしれない。一方の悪い意味でというのは、厳密に「6年」という時間を考えた時、震災の時に死んでしまったハナコの赤ちゃんが、現在動物園で子象と呼ばれる状態でいるということが不自然に思えました。劇作家は、事実と違う自分の中のストーリーであってもいいから、6年という時間をきちんと裏付けしていたのか。そこが弱かった気がしました。


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写真撮影:青二才晃(せんがわ劇場市民サポーター)

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