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2017年10月05日

第8回せんがわ劇場演劇コンクール 専門審査員・アドバイザー講評(1)「平泳ぎ本店」

第8回せんがわ劇場演劇コンクール 専門審査員・アドバイザー講評(1)「平泳ぎ本店」
写真撮影:青二才晃(せんがわ劇場市民サポーター)

※掲載の文章は、第8回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際、専門審査員およびアドバイザーから各劇団にむけて語られた講評を採録・再構成したものです。
劇団によって順番が違っていますが、当日の状況を再現しています。どうぞご了承ください。


■篠原久美子

私は劇作家ですので、全団体さんについて劇作の専門分野のことだけでお話ししようと思います。
この作品は、コインランドリーに洗濯物を入れてから洗濯が終わるまでの40分間で、「回る」ということに関するアンソロジーを作られたのだと思います。
最初はコインランドリーで洗濯機が回る。次は演劇ワークショップで舞台を回る。あの場面での、手を前に出す、目を隠すという動きはまさに盆踊りの振付で「ハレの日としての演劇」にも繋がり、よく考えられていると思いました。それから、輪廻転生、巡る季節というように、「回る」を命題とした素敵なエチュードを見せていただいたと思います。楽しくパワフルで、観ていてとても好感の持てる舞台でした。
ブラッシュアップポイントに関して申しますと、定点のように止まっていた「男」の存在かと思います。あれだけ様々なものが回っている舞台の円の中心にいて、太陽か重力のように一人だけ動かずにいる彼が、「どうやって回ることに繋がるか」、というところに、ドラマのポイントはあったと思うのですが、「手紙」はうまく機能しないアイテムだったのではないでしょうか。。今ですと、手元から離れていってしまう手紙より、SNSの方が、定点にいたままで世界を「回れる」気がします。SNSで、彼が、自分は一歩も動かずに、様々に回る世界の、何と、どう、繋がるのか、ということが明確に描かれると、この素敵なアンソロジーがドラマとして力強くなれるかと思います。とても楽しい作品でした。ありがとうございます。


■スズキ拓朗

表現ひとつひとつ、シーンのひとつひとつ、いろんな種類を持っていて、俳優さんもやっていて楽しいだろうなと本当に思いますし、いろんなことができる人たちなんだと思える点がすごくよかったです。カエルも面白かったし、紙飛行機のコントロールが抜群でしたね。よくあんなところに当てられるなとか、細かいところで本当に面白いと思える部分があって観ていて楽しかったです。
(作品に)入った時にどのくらいお客さんをワクワクさせられるか、そういうのもすごく大切なことだと思うので、最初の洗濯機とセットもカラフルでよかったと思います。
実は僕も(篠原さんと)同じで、真ん中にいた人物が結局どうなってしまうのかというところがもう少しわかると、より一層楽しめたかな。もしかしたら40分じゃ足りなかったのか、その辺が気になったところです。
あともう一つ、ダンサーとして言うと、最後の盆踊りというか、円になって踊るシーンの振付がもうひとつ面白いと嬉しいな、と。もう2段階くらい面白くなったんじゃないかなというのが、思ったところです。
期待するところとしては、既存の作品をああいう手法で解体するのがきっと得意なんじゃないかな、という気がしますので、オリジナルではないものも今後観てみたいです。ありがとうございました。


■高橋宏幸

「回る」というところから、さまざまなバリエーションが、アナロジーという類似性の中で作られていく。それは、やはり集団創作の強みだなと思いました。いいチームなんだなというのが、観ていてもひしひしと伝わってきました。
ただ、この作品は、シュールかな?とも思わせるようなところもありますが、それをつきつめて不条理的に作っているわけでもないので「なぜそれをやっているのか」というところが、やはり弱いような気がしますね。
いまスズキさんが言ったように、例えば既存の作品を解体するという形でやると、別の筋が非常にクリアに見えてくることもあるんじゃないかと思います。まだ若い集団なので、ぜひ今後、いろんなことを試してやっていってほしいと思いました。


■矢内原美邦

ほとんどみなさんが言われたことと同じですけど、挑戦していることはとてもよくわかったし、演出家をおかないで俳優だけで演劇を創っていくというところに面白みを感じました。
けれど、ぐるぐる回るということが何かということと、今の時代になぜ手紙を使ったのかということが最後に見えてこなかった、というのがとても惜しいと思いました。
ただ、俳優がやろうとしている表現とかアイデアやポイントは、たくさん拾えるところがあって、それがとてもいい部分です。演出家がいなくても俳優でどういう表現をしていくのか、俳優だからこそできることは、きっともっとあると思いますから。
応募ビデオでの、文学座批判だったり新劇の批判だったりが、私はものすごく好きでした。この演出家は何を言ってるんだ、ということは、演劇の中ではたくさんあると思うんですよね。それを指摘することによって広がっていく表現があると思いますし、それをできる人たちだと思いますので、それをぜひこれからもやっていっていただきたいです。


■矢作勝義

よかったポイントはもう皆さんが言ってくださったので、少し気になった点を。
それぞれ俳優の方々がそれぞれ回るというテーマで、一個一個、誰かがアイデアを出して作って、誰かが出して作って、誰かが出して作って……という構造が見えてくるんですね。一番は、そこに大きく横串を通す、芯を通すような作業が足りないのではないかと。
それをいったいどういう形で、全員でやっていくのか、それとも誰かが責任を取ってやっていくのか。集団創作の一番難しいところだと思いますが、その選択と可能性を考えていくことが、次のステップへ向かう必要条件ではないかと思いました。


■徳永京子

「回る」というテーマを宿題にして、それぞれ俳優さんが自分ひとりで、あるいは誰かと短いエチュードで作り、それをひとつにつなげた作品だと思うんですが……。例えば「波紋が広がる」ことをモチーフにしたシーンがありましたが、あれを「回る」にカウントしていいのか、私はちょっと疑問でした。波紋状の動きを、「回る」「回転」のエチュードの中に取り入れていいのかどうか。その時点でテーマの詰め方が甘かったんじゃないかという気がしました。他にもそういう甘さを感じて、乗り切れなかったです。
篠原さんからご指摘が出たように、私もマークの10の動きは盆踊りだと最初に思ったんですが、だとしたら最後の盆踊りに冒頭の10の動きが反映され、リンクされれば、作品全体が循環する構造になり、もっと演劇作品として深まったというか、面白いものになったんじゃないでしょうか。
また矢作さんがおっしゃったように、演出家や劇作家をおかないとしたら、自分たち一人一人が劇作家であり演出家であることをもっと自覚して、成長しないといけない。劇作家として作品の中に入り込むこと、演出家として外に引いて観る目を持つこと、その両方をひとりひとりがちゃんと持てるようになったら、本業である役者さんとしても、ものすごく強みになると思います。
俳優だけで作品をつくるというスタイルで始めたわけですから、そこはぜひちょっと踏ん張ってやっていただきたいなと思いました。



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写真撮影:青二才晃(せんがわ劇場市民サポーター)



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