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2015年10月20日

受賞者インタビュー(1) 劇団しようよ・大原渉平さん(オーディエンス賞)

―オーディエンス賞おめでとうございます。今日は京都からですか?

大原 京都の「KAIKA」という劇場を運営している、「NPO法人フリンジシアタープロジェクト」という組織がありまして、その関係のワークショップで東京に来ました。

―ドキドキぼーいずさんとも一緒にやっていらっしゃるんですか?

大原 以前から知り合いということで、たまに同じ現場で仕事をすることもあります。今年から「アトリエ劇研」という劇場の「創造サポートカンパニー」という枠組みにいろんな団体が入っていて、そこに「劇団しようよ」も「ドキドキぼーいず」もいたりとか、そんな繋がりもあります。

劇団しようよ「こんな気持ちになるなんて」




―今回初めて本選に2団体、京都の劇団が出場し、受賞しました。今回の作品はドキドキぼーいずさんを意識されたとかは無いと思いますが、いかがですか?

大原 ふたを開けてみたら、「うわ、ドキドキぼーいずがいる」と思ってびっくりしました。とはいえ、作品をつくる上でとくに意識することはなかったのですが、京都の団体と一緒にコンクールに出られたのは楽しかったです。
「劇団しようよ」は、もともと2011年春にミュージシャンの吉見拓哉と旗揚げした劇団です。当時はふたりでメガホンとギターを持って、路上で叫びまくるパフォーマンスをやっていたんですよ。自分の内面を吐露するようなことをやっていて、劇場公演でも自分の悲しみ、痛みを訴えるような作品をつくっていました。
もちろん、それを支持してくれるお客さんはいた一方で、「これ、いつまでたっても何も生まないぞ」ってある時から感じるようになって。そこで、どうやって間口を広げるのかをすごく考えました。たとえば「パフ」という曲をはじめ、童謡や童話をモチーフにして、そこで何を語れるのか、語りたいのか。いまの自分には「お客さんとコミュニケーションする」ということが大きな関心ごとなので、今回『こんな気持ちになるなんて』でオーディエンス賞を頂けたことは、とてもうれしいです。

―フリップを使ったっていうのは初めてですか?

大原 『こんな気持ちになるなんて』は、2014年の秋に初演した作品で、そのときは実際にハンバーグを焼いて、肉の気持ちを演じる、というものでしたが、そこでもフリップを使いました。今年の5月には、アトリエ劇研で柴幸男さんの『あゆみ』という戯曲を上演したんですが、そのときにも使っています。本筋の物語を見る「別の視線」みたいなものをフリップで見せることで、お客さんの中に、いわゆる「ストーリー」以外の「物語」が生まれればいいなと思いました。まだ初めて1年くらいの手法なので、もっと突き詰めて考えていきたいです。

―3月にまたせんがわ劇場に来ますよね。そのときは今回とガラッと変わったものを何か考えていらっしゃるんですか?

大原 実は結構悩んでいるんです。僕たちは作品の再演に積極的な劇団で、新作を3ヶ月や4ヶ月に1回つくるよりも、1回つくったものに、「いったいどういうことだったんだろう?」と、もう1回鉱脈を掘り返すような気持ちで取り組むことで、より作品の質を高めたいと考えているので。
とはいえ、短編の演劇作品やパフォーマンス作品をまとめて観ていただくのもひとつだし、2016年6月には「ロームシアター京都」で新作を発表するので、たとえばそのリーディングをするとか、東京の俳優さんと一緒につくるのも面白いなと思っています。
『こんな気持ちになるなんて』がどう見られたのかはわからないですが、小さい子も楽しめる一方で、きちんと奥深くまで考えられるような作品こそ強度が高いと思っているんで、次も深く広く、いい作品を作りたいです。

―せんがわ劇場は初めていらっしゃったんですが、東京のほかの劇場と印象は違いますか?

大原 せんがわ劇場は、ちょっとブラックボックス寄りというか、プロセニアムの劇場なので、むしろ自分たちが実力を発揮する訓練にもなりました。京都でこのサイズの空間に取り組むことは今までほぼなかったので、この場所にどうやって作品を流し込むのか、苦労というかやりがいがありました。空間として広すぎるわけでもないので、繊細な芝居もきちんと届くのがよかったです。

―大原さんはもともと学生演劇なんですか?養成所や指導者について何か教わったことはあるんですか?

大原 演劇を誰かに習うとか、学問として勉強するという経験はしたことがなくて、先輩のけいこ場に潜入させてもらってお世話になったりという感じだったので、現場で勉強させてもらったところが大きいです。

―大原さんたちは結構テクニカル的にわかっていることもやっていて、それをどこで身に着けたのか。誰でも見てわかる、子供でも見てわかる、でもその中にどれだけこめられるか、ちゃんと組み立てていくか。それはどの影響なんですか?


劇団しようよ「こんな気持ちになるなんて」
大原 大学で現代美術を学んでいたこともあって、たとえば作品のなかの一要素があったとして、それが何を意味しているのか、どんな歴史の中でこれがあるのか、前後関係がどうなっているのかなど、いわゆるコンセプトの部分を大切にしたいと思っています。その一方で、感覚的にこれがやりたい、こういう雰囲気が面白い、というのも信じていて。なので、まずは感覚的に走り出してみて、そのあと、なぜそれが大事なのか、必要なのか、それをしっかり語れるようにしなければと思っています。
また、旗揚げ当初の路上パフォーマンスなどで、言いたいことを言いたい放題言った結果、やっぱり受け入れられなかったという悔しさみたいなものも大きいと思います。
たとえば作品でなにかを訴えたとき、Yesという人とNoという人がいる。だけど、Noという人は、僕の言い口や言い方が受け入れられないのであって、その内容自体は、共感してもらうところまでは目指せるんじゃないかと思っているんです。
20代の自分が言うのではなくて、あたかも子供が言っているように変換するとか、人形がしゃべっているように変換するとか、ハンバーグやスイカがしゃべるように変換する。僕が言いたかったことが、その語っているものの姿が変わるだけで誰かに伝わるはずだと思うところには、かつて伝わらなかったことの悔しさや虚しさが、べつの形になってあらわれているような気がします。

―それでは3月にお会いしたいと思います。

大原 はい。3月に向けて一回りも二回りも成長していきたいと思います。その間にも公演があるんで。

―どうもありがとうございました。


オーディエンス賞 劇団しようよ




■劇団しようよ
 2011年、作家・演出家の大原渉平と、ミュージシャンの吉見拓哉によって旗揚げ。徹底して物語を志向する戯曲と、想像力を喚起して時空間を超える演出、劇伴音楽の生演奏などが特徴。
 主な作品に、モンゴル民話「スーホの白い馬」を地方都市で起きた失踪・放火事件の物語に読み替えた『スーホの白い馬みたいに。』(2012/2014)、少年と謎の生物をめぐるファンタジーがやがて圧倒的現実と結びつく人形劇『パフ』(2014)、柴幸男氏による「女性の一代記」を父親目線から解釈した『あゆみ』(2015)など。
 2012年「えだみつ演劇フェスティバル2012」(北九州)、2014年「王子小劇場新春ニューカマーフェス2014」(東京)参加。2015年「第6回せんがわ劇場演劇コンクール」(東京)オーディエンス賞受賞。同年よりアトリエ劇研(京都)創造サポートカンパニー。

■大原渉平
1988年11月11日滋賀県生まれ。作家・演出家・俳優・デザイナー。
 学生時代より演劇活動を開始し、2011年に劇団しようよを旗揚げ。以降、全作品で作・演出を担当。舞台・映像分野で俳優としても活動する。
 初舞台は、保育園時の『たこ焼きマントマン』イエロー役。「青のりを敵役にふりかける」という演技をするはずが、ポケットから一枚も青のりを出せず失敗に終わる。その時のことを克服したくて今も舞台に立っている。
 2011年「京都国際舞台芸術祭〈KYOTO EXPERIMENT〉フリンジ新プラン・公開プレゼンテーション」最終選考参加。また、2013年よりパイロット版シアターシリーズ「gate」ディレクターを務め、2015年度よりアートコミュニティスペース「KAIKA」の年間ラインナップ選定に携わるなど、創造環境・観劇環境の整備にも取り組む。


写真撮影:青二才晃(せんがわ劇場市民サポーター)


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