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2015年10月20日

第6回せんがわ劇場演劇コンクール 専門審査員講評(5) LiveUpCapsules

LiveUpCapsules「ふみ」



※掲載の文章は、第6回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際、専門審査員から各劇団にむけて語られた講評を採録したものです。

■眞那胡敬二

与謝野晶子を中心とした明治期の文壇の世界を簡潔にわかりやすく語っていて、よかったと思います。よくできていたと思います。ただ、近代文学史のダイジェストをわかりやすく見せてもらった、という印象が残りました。

さっきのchon-muopさんの時にいいましたが「記憶と記録」という言葉がまた浮かんできて、LiveUpCapsulesさんには「記憶」を見せてもらいたいと思いました。記録は、昔のニュースやフィルム・本を見ればいいわけで、舞台の上で創りあげる世界では、当時生きた人たちがどんな記憶を持ったのかということを、現代に生きている我々が想像力豊かに創造し、表現することが必要だったんじゃないかと思います。そういうものにはなっていなかった、それが残念でした。


■徳永京子

脚本、とても丁寧に書かれていたと思います。与謝野晶子と鉄幹は、みんなだいたい名前や代表的な歌も知っていますけど、それ以外のところにも広げて、日本の文学史の中では忘れられがちな人たちの人間関係や著作などもよく調べて、人物を整理しながら、うまく書かれていたと思うんです・・・が、前半と後半の話がパッキリ分かれてしまいましたね。

個人的な好みからいうと、前半は、先ほど申し上げたように晶子と鉄幹のことはだいたいみんな知っているので、後半の部分をもうちょっと広げていっていただけると、いろんな発見を村田さんがしてくださって、見ているこっちも発見があったんじゃないかと思って、そこがちょっと惜しかったです。

あと、実は最後の台詞がとても気になりました。とてもいい台詞で終わっているんですけれど、いい台詞過ぎて、あれだけにテーマが集約されて、非常に教育的な作品なのかなという誤解を招くかもしれないと思いました。そういう作品をなさりたいのかもしれなくて、それならいいんですが、それだけじゃない可能性を秘めたテーマ・モチーフだと思うので、役者さんを責めているんじゃなく、ああいう、役者さんがドヤ顔になりがちな台詞をラストに持ってこないということはすごく大切なことだと思います。

あと、ちょっと厳しいことをいうと、俳優さんのレベルにばらつきがあったと思います。お稽古の時間もちょっと足りなかったのかな、と思ったりして。


■白神ももこ

手紙を扇にして小道具として使うのはすごく粋だと思いました。ただ、気になったのは、扱っている題材や、みなさんの衣裳的に(必要なはずですが)、私たちはもうあまり日常的に着物を着ないので、着物を着て振る舞う、演技をする、立ち居振る舞いという(部分が)基礎力として(足りていない)。

さっきも言ったんですけど、ものを扱う仕草、そういう繊細なところを気をつけないと、こういう世界では冷めちゃうなあ、という感じがしました。身体(しんたい)に重みが出てくると、もう少し、声とか言葉に重点が出てくるとか、言葉の強さに体がついてくるのかなと思いました。

あと、せっかく生演奏だったんですが、違う楽器の方が演出的には効果的だったのではないかという印象を受けました。


■越光照文

私たちは審査をするときに、脚本・演出・演技・トータルという項目を設けて評価の点数を入れるんですが、この作品の場合圧倒的に脚本の力が評価されていました。事実私も、昨夜ちょっと目を通したんですが、大げさでなく、ちょっと興奮したんですね。このせんがわ劇場で、新しい劇作家、力のある劇作家に出逢ったんではないかという予感があって、実際の舞台がどうなるのかものすごく期待をして観ました。

しかしこれだけ素晴らしいテキストになっているのに、俳優陣の力、そして演出が淡泊すぎてもったいないなと思いました。空間が、この国の近代史の重い時代を描くにはフラットすぎたのかな。
好意的に見ると、この難しい時代を描いていくにあたり、あまり難しい描き方ではなく、観客に受け入れやすい軽さを出そうとしたのかなという風にも思えますが、それが逆に足を引っ張っているのではないでしょうか。

とても力のある方なので…ここまで評価していいのかわかりませんが、村田さんの脚本を読みながら、たとえば永井愛とかマキノノゾミですとか宮本研といったような、先行する作家たちを継ぐような、勉強家であり劇作家としての資質を持っているのではないかという感じさえしたんですね。

だからこれからは、村田さんはいい演出家を探して、書くことに専念されたらどうでしょうか?その方が村田さんの演劇的才能というか、書く力がもっと増すし、それからたとえば中核をなす新劇団があなたの脚本を担ったら、私はもっと重厚な、現在性、現在の問題として浮かび上がるのではないかと思います。今日、観客のみなさんが、こんなにいい脚本だとまでは気づかれずに終わってしまったんではないかというのが、いかにも私は残念です。


※以上の評は、第6回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際、専門審査員から各劇団にむけて語られた講評を採録したものです。

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写真撮影:青二才晃(せんがわ劇場市民サポーター)

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